1 狐とかおす

 狐とかおすいだったずも。
 そうすっど、かおすざぁ、あれ、魚を川から取るのうまがった。狐ざぁ、魚と れねぇんだ。狐は食いたい。そうすっど狐は味付けた。
「はぁ、かおすは雑魚とって持っているな」
 そして晩方くらくなる頃、
「お晩なった。ああ」なんて、
「今日は取っじゃべぇ」
「取っじゃ、なぁ」
「ああ、煮っだな」
「うん、一つ食って行げ」
 て言うわけで、狐、たんと食ったんだ。そうすっど狐、勘定あるもんで、
「明日、おら家(え)さ来てくんねが」
 なて言うもんだ。
「おれも雑魚いっぱいとって煮っから、雑魚汁すっから、来てくろ」
「あまりええがんべ、ほんじゃ」
 そうすっど次の晩げ、かおす行ったんだ。狐一日探したげんど一つも取らんね。 雑魚。そうすっど狐、味付けた。「お晩になった」て来た。黙っていた。腕組んで ガラガラと戸を開けた。「いたな」
 そんでも狐はキンカ(耳が聞えない)の振りした。何とも困ったもんだ。キン カの振りもそうしていらんね。
「実は一つも雑魚とらんねのよ。なじょすっど取られるもんだ」
 て、かおすさ聞いた。
「はぁ、お前なんだ。そがえなええ尻尾もってて取らんねぇざぁ、ないわけだ」
「なじょすっどええ」
「いや、その山の堤ざぁある。んだから寒 かん じっ時、雪掘ってちょっと伏せておく と、うんとかかる」
「はぁ、ほんじぇ、明日おれ取ってから来てくろ」
「ほんじゃ明日来っから」
 ていうわけで、戻ったわけだ。かおすはごしゃげるもんだから、そう教えたの よ。そしたら狐、まともに聞いて、
「よし、糞、ほんじゃ明日あたり取って来 く んなね」
 ていうわけで山の堤さ行った。そん時、堅雪で、山引き(焚物を山から出すこ と)などしてるときだな。びんびん寒 かん ずる。狐、魚とり教えらっじゃ通り、雪穴 掘って尻尾つけておいたわけだ。そうすっどびりびり、びりびりとなって来たど。
「いや、こんでずいぶんかかんな」
 しみるもんだ。びりびりと感じるなよ。そうしたところに明るくなったもんだ から、焚き物引きで百姓衆来た。
「何だ、狐いた」「何」「狐いたどれ」
 なて、追っかけ方が始まったていうたな。そうすっど狐は恐っかねぇもんだか ら、逃げる気になって引張ったどこ、一つも動かね。尻尾は凍みで喰っついたな、 びりびり、びりびりとさっぱりかかんねげんども、凍みてしまったんだな。そう すっど、
   少々の小雑魚 逃げてもええ
   エンサラサ
 そして尻尾もげでしまって、命からがら逃げて来た。人の真似などするもんで ないけど。どーびんとん。
(遠藤昇)
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