-(9)吊し柿売りと南蛮粉売り-

横尾高治
 関山峠みたいなどこで、吊し柿売りと南蛮粉売りが道づれになってよ、そして峠で吹きあったていうなだな。吹き合って、お互に雪の中さ閉じ込もって動かんなぐなったなだね。そしてるうちに、腹空(す)き来て吊し柿売りは自分が食いもの持ってたはげて食ったっだげんど、南蛮粉売りは南蛮粉ではとても腹ごたえさんねしね、困ってだてなだ。
 そして吊し柿売りさ、
「南蛮粉と吊し柿とっかえねが」て言うたっていうのだな。そしたら吊し柿売りは、自分が、
「南蛮粉なて、はつけな腹くっつくもなんないし」て、やんだがったんだな、取換えんな。そして、
「嫌(や)んだ、取換えね」て、吊し柿食ってずうっといたて言うのだな。そしてるうちに、南蛮粉売りは食うようないし、南蛮粉なめっだっだべちゃね。そうしてなんぼ日ぐらい一日も二日もそうしていたべちゃ、吊し柿売りは凍(し)み死んで、南蛮粉売りは南蛮粉は温(あた)まりなもんだから、いっこうさしつかえなく生きっだっていうなだな。
 柿は冷えなもんだし、南蛮粉は温まりなもんだからな。どんびん。
(横尾高治)
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