-(7)初夢-

八島与三郎
 とんとむかしあったけど。
 ある正月の時でもあったがして、正月二日というど、ええ夢を見っどしあわせだていうことあったもんだから、正月二日の晩ていうど、宝船を折って床の下さ敷いて寝っどええ夢見るという、こういうような話でいたもんだから、ある正月二日にええ夢見っどええと思って、宝船を折って床に敷いて寝むたていうわけだ。
 そうしてるうちに寝むってしまったど。
 明日は元日だし、朝早くお詣り行かんなね。そうして時計見たれば、もはや、十二時を打たんとしていた。んで、ほれ、一番早くお詣りに行ったらええがんべ、御利益あんべと思って、八幡さまとか御薬師さまさお詣り行ったていうわけだ。そうして行ったところが、まだ灯り一つ点いていね。こりゃおれぁ一番掛けだと、こりゃええどさ来たって、灯(あかし)を点けてお詣りしたていうわけだ。そうしたところが、天狗さまが出はって来たていうわけだ。
「小僧、小僧、おう早いな、何かお前夢を見て来た、んねが」て言わっだど。ところが、ええ夢見たときには人に語んなていうことになってる。人に語っど無効になるていうて、
「こいつぁ、誰ちゃだて語らんね、ええ夢見た」
「ええ夢見たか」「ええ夢見た」「ほだら、おれちゃ語れ」て、こういうわけだ。「いや語らんね」「いや、ええから語れ」「いや、何(なえ)ったて語らんね」「ええから語れ」て、そうして語らんねものは聞くだい、見せらんねていうものは見たいていう、ますます天狗さまが聞くだくなった。なぜしたらこの若者が、おれちゃ見てきた夢を語っかて、いろいろだましたげんども語んねていうわけよ。そうして聞くだい…。
「んだれば、おれが持ってる宝物、こいつをお前に呉(け)っさげ、語れ」て声掛けたわけだ。
「いや、ほいつは何な宝物だ」
「これさえあれば、自分の思う通り世界を飛んでも歩るくいし、何かものを欲しいて言えば、望みのものは出るし」て、こういうて聞かせたわけだ。
「ほいつは悪くない」て思っていた。んだげんども、果してそれが本当か嘘なものか、自分がそいつを持ってみないごどには信用もさんねし、
「ほだら、そいつ、おれちゃ貸してみろ」て、こう出たど。何の品物だったか、われぁ想像するには、扇子みたいなものであったがして、「おれちゃ、ちょっと貸せ」て、借っだていうわけだ。いろいろなこととなえたれば、飛んで歩(ある)ぐいずまや。
「こいつぁええもんだ」
 饅頭といえば、饅頭は出る。というわけでいろいろ自由自在にとんで歩(あ)いで、自分の家さ来て、降(お)っできたていうわけよ。ところがポイラ目さめたていうなだ。そこで、
「ああ、夢であった。こいつが正夢であったか」て、いうことに気がついたわけだった。
(八島与三郎)
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