1 牛方と山姥

 むかしあったけど。
 ある時、越後の方がら魚屋が、いっぱい魚を仕入れて、山道にかかったら、お日さまが暮れそうになったど。そうしたら、うしろの方がら、
「魚いっぴき呉れろ、魚いっぴき呉れろ」
 と、追っかけて来るものあっじもの。魚屋は恐っかなくて、うしろ見らんなくて、魚だけ一匹、うしろへ投げでやって、ぐんぐんと歩いたど。じきに追っかづがっで、また、
「魚いっぴき呉れろ、魚一匹呉れろ」
 というど。こんどは二、三匹つかんで投げでやって、またぐんぐんと走ったけども、またじきに追っかっで、また魚一匹くれろというずも。こんでは性がないからど思って、背負ってだ篭ごと置いで逃げて行ったら、ぼっこれかげんの家あったので、そごさ入って、ツシさ上がって隠っでだど。
 よっぽど経(もよ)ってがら、
「ああ寒い、寒い。魚はいっぱい食ったが、寒いがら、甘酒でも温めて飲むが」
 なんて、鍋をかけ、まず温まるまで、背中あぶりでもしっかど、横になったど。それをツシから見てた魚屋は、屋根の苧(おの)殻(がら)を抜いで、つうつうと、みんな吸い上げてしまったど。そしたら、鬼婆は目をさまして、
「どれ、温ったまったが」
 なんて言いながら起きたら、鍋はからになってたので、
「おやおや、眠ってるうちに、火の神さまが上がやったが。しかたない。こんどは餅でも焙って食うが」
 なんて一人言いいながら、餅をもってきて焙り、
「焙れるまで、一眠入り」
 なんて、またごろっと寝たど。そうしっど、また魚屋は焙っだ頃、芋殻で餅をじぐっと刺して、引っぱり上げては食い、引っぱり上げては食い、みな食ってしまったど。
 鬼婆は目をさまして、
「どれ、焙っだがな」
 なんて起ぎでみだら、餅、さっぱりながったど。
「おやおや、また火の神さまが上がやった。仕方ないがら、寝床にしっか。石の唐戸にしたらいいが、木の唐戸にしたらいいが、今夜は寒いがら、木の唐戸にしんべ」
 なんて、木の唐戸に入って寝たど。それを見て、魚屋はツシがらそろっと降りできて、火をどんどん焚き、大きな鍋をみつけでお湯を沸かして、唐戸に鍵をかけ、キリで、きりきり、孔をあけだら、中で鬼婆は、
「今夜は寒いせいか、裏のキリキリ鳥が鳴くな」
 なんていってるうちに、その孔がら、熱っついお湯を、じょんじょん入れてやったど。
「ああ、熱い、熱い、助けてくれ、助けてくれ」
 と言いながら死んでしまったど。魚屋に仇とらっだけど。むかしとーぴん、さんすけびったり釜の蓋、灰でみがけばよい銀玉、なぁ、さんすけふんはい。


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