86 紫式部の唄よみ

 むかしあったけど。むかし宮中で歌の会ときどきあったど。ある時、紫式部という方が、なんぼか上手歌よんだど。そしたら朋輩衆に、
「お前の母親は歌の名人だもの、これは母親に聞いた歌だべ」
 て、そう言わっだど。紫式部は残念で、あの係の方が自分の前通るとき、袖をおさえて、唄よんだど。
    大江山 いく野のみちの遠ければ
      また文をみず 天の橋立
 て、おかあさんが遠いとこにいでやって、そんでそんな見る余裕はなかったって。そういう歌であったど。むかしとーびん。


>>川崎みさをさんの昔話 目次へ