84 義経と弁慶

 むかしあったけど、義経と弁慶、戦(いくさ)のとき、ある山の上で陣取っていたとき、
「何だか、弁慶、トロロ食いたい」なて、こういうたど。
「谷間さ降りたら山の芋掘られんべから、おれ作って来るわ」て、〈ご主人のごんだもの〉て、弁慶おりて行ったど。義経、
「あんなこと言うて、弁慶は芋は掘られっかもしんねぇども、なじょにして擂るもんだべ」て、そう思って、山の上さあがって、弁慶は見たど。そしたれば谷間さ行ってみて、山の芋ぁ見つけて掘ったど。やっぱりそのうちに昔の弁当、それさ、弁慶、山の芋きれいに洗って、ガリガリと噛んでは、ほろぎ出し、ガリガリと噛んではホロギ出しすっどな。そしてこんどは、ええ加減溜った時、味噌入っで、ガェロガェロかましてはぁ、持って来たど。
「いや、ひどいもの、これは食せられるもんだ」て、義経、そう思ったどなぁ。
「弁慶、世の中で何一番汚ないと思う」て、こういうたど。弁慶は利巧な人であったどな。「人のすること見ないふりして見てる人が一番汚ない」て、そう答えたど。仕方なくって、義経は弁慶の噛み出したトロロ食ってあったけど。むかしとーびん。


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