83 岩見重太郎

 むかしあるどこさ、鎮守さまがその当時の娘ば人身御供に取るどこあったど。そしてそこの家に白羽の矢立つど、どうでも上げんねねがったごんだど。箱さ入れではぁ。そさ、むかし、偉い強い侍で岩見重太郎という人いで、その村通りかがって、庄屋さんさ泊ったど。そうしたば、「泊めて下さい」ていうたば、
「今夜はとりこみだども、まずどこがさ、ほだら部屋もあんべがら、泊まれ」
「どんなとりこみだ」て聞いたば、
「実は鎮守さまさ家の娘、このたび人身御供に上げんねねことになってはぁ、それ当ったごんだ。今までも村の内に代り代りに上げらっだんだども、この度はうちんのが、白羽の矢立ったごんだ、おら家の屋根に」
 て、こう言うごんだど。泣いて教えっずも。
「鎮守さまともあろうものが、そんなはずない。そんでは、おれ代りに箱さ入って行ってみるがら、娘でなく、おれば入れろ」
 て、そう言うたずも。そうして箱さ綿帽子かぶってはぁ、娘の仕度して、入って行ったごんだど。そうして行って箱置くど村の若衆はびんびんと跳ねて来たど。
 そしていつでも、いま来っか、いま来っか、なじょなもの来っかと思って中で考えっだじもの。刀は短かいな持って。その内に今度、雷など鳴って、何かドサッと社の前さ落ちたど。そうしているうちに、その箱の蓋、みりみりと破って開けるものあったずもの。夜目にもわかるような赤い顔した白いような者だずもの。
 そうすっどその喉のようなどこ目がけて手掛けようとしたどこを突き上げたごんだど。そうすっどキャーッという声だずもの。そして箱から飛び上がって、あちこち突っついたど。そしてまず箱さ入っで、かつねで来らっだから、方角も夜のことだし、よく分んねから、夜明けてからすんべと、そう思っているうちに、夜ほのぼのと明けたか、村の衆、遠くがら「いたか、お侍、いたか」て来たずも。
「いた、いた」て。そうしたば、みんな集った。よっく見たば年経(へ)た緋々であったど。そうしてはぁ、そういう風にして娘ば食ってだなであったど。村の衆に大変喜ばっでだけど。むかしとーびん。


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