82 阿波の徳島十郎兵衛

 むかし、阿波の国に、阿波の徳島十郎兵衛という人いだっけど。何かの罪で、国におられず、一人娘のおつるという、かわいい女の子も母親に頼み、遠い国の山奥で狩りをしたり、旅人をおそいお金を盗ったりして暮しったけど。
 阿波の国では、おつるも十二歳ばかりになって、ばばちゃに、
「おれのおどっつぁんやおっかさんは、なじょになっなったなやぁ」
 て、毎日聞くもんだから、三人でお前をばばのおれにあずけて出て行ったが、風の便りに生きてるらしいから、お前探しに行ってみっかって言ったど。そして笈摺(おいずる)という巡礼の着る着物に笠とに、同行二人と書いて、それは、一人にお大師さまの陰たのみななだど。それを着て笠をかむり、鈴を持ち、ばばちゃに聞いた親の年格好の人を探し探して、ある山小屋のような家に来たど。そして巡礼にご報謝ねがいますというと、自分のこころに描いた年格好のおっかぁが出てきて、
「おやまぁ、こんな年端もいかぬ子が、かわいそうに」
 と思い、国はどこで、名は何というか、また親の名は…などと、「わが子もちょうど…」このぐらいになったべなぁと思うもんだから、やさしくして、腰かけて休め、何か食べろの、といったげんど、おつるもうれしくなり、
「はい、国は阿波で徳島の、父様は十郎兵衛、母親はおゆみと申します。その父様、母様にお会いしたくて、こうして探して歩くのです」というたど。その時のおゆみの驚きはもう少しで、その母はこのおれだと口まで出かかったが、親父どのは泥棒にまでなりさがっていることを、どうしてもこんなかわいい娘に聞かせらんないと、心に思い、つい涙をぼろぼろこぼしたど。それを見ておつるは、そんなに泣いてくれっどこ見っど、もしや母様でございませんかと聞いたど。おゆみはあわてて涙を拭いて、
「いやいや、お前のおっかさまではないが、あまりかわいそうなので、つい涙が出てしょうがない」と、立って行き、お金たくさん持ってきて、「これをご報謝しますから、早く麓の村にさがり、そしてばばさまの待つ阿波に帰った方がよいと思う。お前の、そんなに会いたがってることを、親たちがどこかで聞いて、お家に帰ってるかもしれないから」と。親ではないかと泣くおつるを、早く親父の帰らぬうちにと、なだめすかして送り出してやったけど。運わるく、まだ村に出ないうちに、あまり獲物もなくてくてく帰る十郎兵衛に行き会ってしまったど。そして何もいわず絞め殺し、ありだけの金をとって家に来て、自慢話にしたど。いや、おゆみは驚いたり悲しんだりで今日のことを話して聞かせ、それは娘のおつるだといわれて、十郎兵衛もいままでもおゆみに泥棒だけはやめてくれと、たびたび言わっでだが、なかなか止められなかったっけど。自分の子を殺し、ようやく悪い目が覚め、頭丸めて娘や今までの人々をともらったど。むかしとーびん。


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