76 慶次之介と玉川太郎

 慶次之介は下滝部落の丸山という山の中ほどに、岩の洞穴に住んでいて、山でも川でも上手であったというので、今でも部落の人々は山の神のように信仰をして、旧二月十七日にお祭りをして、そこへお詣りに行く。けれど、出っぱっているので、風当りがつよく、雪が積らず、とても岩穴は誰一人見た方がないそうです。その下でお詣りして帰る。年々そうなそうです。そして部落の言い伝えには金の茶釜があるというんだそうです。
 玉川太郎との喧嘩は、太郎が玉川の川に簗(やな)のような仕掛けで、真中を水を通して、そこにドウていう、細い木で編んで丸くしたものをつけ、魚をとる。それを作っておいたから、慶次之介がそっと魚とって逃げようとしているところを太郎が見つけ、怒って追いかけては、石を投げつけ、投げつけした。慶次之介はぶっつけられては大変と、かけてかけて、下滝のところを、五アゴにかけて、次の山を駈けずって、これは「駈けずり山」という。そして岩屋に逃げ込んだ。今でも岩穴の下に山菜とりに行くとカランカランと音することもあるという。


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