59 夫婦と鏡

 むかしあったけど。
 ある殿さまが〈触れ〉廻して、「灰で縄なったものには、何でも好きな御褒美くれる」て、そういうお触れ廻したど。そしたら、その息子が工夫して縄なって一把に束ねたままで、火点けて焼いて、そくっとそのまま持って行ったど。殿さまの前さ、そしたら殿さま、
「よく出来た」て。
「では、お前の好きなもの、何でも呉れっから、言ってみろ」
 て、こう言わっだど。
「おれぁ、何も欲しくないども、死んだ父親に会いたい」
 て、こう言わっだど。そしたら殿さま、
「ええどこでない。会わせてくれっから」
 その当時、殿さまでもないば、鏡なていうもの持たねがったど。そしてその鏡を呉れたど。そして箱に入った丸い、こう持つ鏡であったど。そして、
「もう二、三年経ってからでないば、ふた取んなよ」
 て、こう言うて教えたど。そしてそれを固く守ってはぁ、三年すぎてから、その箱のふたとってみたど。そしたば、自分の顔は鏡に写ったど。そしたら父親によっく似た顔であったと見えて、父親だずもの。
「ああ、ええがった。親に会えた。殿さまのおかげで。こりゃ大事にしまっておいて、ときどき会わんなね」
 て、またふたしてはぁ、大事にしまっておいたど。そしたら、かが、こんど、
「おら家の親父、どうも座敷の方さ行って、ニコッと来るど。何、まず、しまっておいたもんだ」
 て、不思議に思ったど。そしてこんど親父のいないうちに探したど。あっちこっち。そしたらその丸いもの見つかったずも。それからふたとってみたど。したらば、なんぼかええ女いたずもの。
「おやじ、おれに隠して、こんなええ女しまっていた」
 こんどは怒ってしまってはぁ、それば、かが、ぶんぶんていたど。親父帰ってきたど。
「このおやじ、今まで人ばだまして、あんなええ女かくして、毎日会っていだなであったな」て、大喧嘩になったど。
「そんな女、かくしておくはずあっか」て。
「いや、ある」て、二人でゆずり合わねずもの。
「ほんだら、歩いで見ろ」
 て、そのかがは親父ば引張って行ったど、座敷さ。そして箱とって、
「ほら見ろ、こんなええ女しまって置いて」
 て、こういうたど。親父ぁ、
「それなど、おら家のおどっつぁだ」
 て、こういうど。そして顔と顔寄せてみたば、二人写ってしまったど。それではじめで、これは写るもの、子は親に似るもんだなと、二人で悟って、仲よく暮してあったど。むかしとーびん。
「集成 319 尼裁判」
>>川崎みさをさんの昔話 目次へ