58 かくれみの

 むかしあったけど。ある村に、おじいさんとおばあさんと二人暮していたけど。そうしてこんど、おじいさんは山さ畑つくってで、そこの草とりに行ったずも。そして、
「あんまり暑いから、休むかな」
 て思って、尻ついて、
「夕方にもなったし、休んで帰りましょう」
 て思って、休んでだら、何だか人の喋るような声すっずもな。よっく聞くど、何か洞穴にでもいたでないかと思うような感じすっけがら、ずうっと声する方さ行ったど。そうしたば木の洞(ごうら)っていうわな、朽ちて中穴になっていたどこさ、そこさ行ってみたば、天狗二人いたけど。そうして何しったと思って、そっと覗って見たば、二人で踊りおどっていたど。
   一とべ 二とべ
   一とべ 二とべ
 てはぁ。二人ではね上がって踊っていだっけど。はぁ、面白そうで、じんつぁ耐えらんねがら、「おれもはまってみましょう」て、「一とべ、二とべ」て、入って行ったずも。そうすっど天狗、喜こんで喜んで、三人で、
   一とべ 二とべ
   おれもはまって 三とべ
 て、しばらく踊って、
「あまり上手だから、帰るときに駄賃に、かくれみの、呉れてやる」
 て、ミノもらったど。そうして、よほどいたましい羽根だども、とばんねど悪(わ)れから、
「この羽根つけてやっか」
 て、羽根二本つけて、そのミノもらったど。そしてこんど、
「どがえだか、とんでみっか」
 て、そのミノ着てるうちにぁ、ぐうっと飛んで行ってしまったずも。そしてこんど、いま少しで家さ行きつくようになったども、とってもオシッコ出てはぁ、堪えらんね。かくれみの着たまんま、オシッコしたずも。とんでで…。そうしたば、そのかくれみの、せっかく前合せっだな、そこ孔あいでしまったど。村の人は、「何だ。あれだけとんで行く」て見たど。そしてそこだけ出して家さ帰ったれば、婆さ、そこだけ歩いてるのを見て、たまげだど。
「ばさ、ばさ、いまちいとで家さ帰る頃になったば、オシッコ堪えらんねで、小便たっで、かくれみのさ孔あいでしまって、あんばいよく飛ばんねけがら、ここわずか歩いて来たども、天狗さまにごういうものもらって来た」
 て、そうして大事にしまっていたど。
 したば、そして次の日になったば、天狗、
「じんつぁ、じんつぁ、何としった」
 て、来たずも。して、
「昨日はええミノもらって、とんで来たども、家さ、いまちいとで来るときはぁ、オシッコ堪えらんねで、途中でとんだまましたら、肝心などこ孔あいで、チンチン出はるようになった」
 ていうたど。そしてこんど、
「んだら、これ貼ってくれっから、おらいたどころさ来い。ミノ着てこい」
 ていわっで、それ修繕してもらって、またそのミノ着て、その洞穴さ行ったけど。そしてまた、
   一とべ 二とべ
   おれもはまって 三とべ
 てはぁ、たのしくおどって、そしてこんどは大丈夫にしてもらって、そのかくれみの着て、家さ帰ったど。ほしたれば、ばんちゃは大喜びしたずも。むかしとーびん。(高橋しのぶ氏と補いあって語ったもの)
「集成 468 隠れ蓑笠」
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