44 化物寺

 むかし、おら家(え)のあたりのようなところに、古い寺があったけど。そしてそこに来る和尚さま、くる和尚さま、喉をみんな食いちぎられて殺されっこんだじもの。
 ある日、なんだか賢こそうな旅僧がその村に来て、その話きいて、
「よし、そんではおれがその化物退治してやっから、おれどこをここのお寺の住職にしてくろ」
 なんていったど。年寄りたちは、
「とても駄目だべがら、やめろ」
 ていうども、聞かないで、まずお寺さ泊めることにしたど。そしたら旅僧は大きなフクデ餅一つ呉っでけろて言うたど。どこの家にあったが、やったじもの。
 そして夜になって、旅僧は火を焚いで、そのフクデ餅をワタシに上げたら、「こんばんは」なていいながら、一人の和尚さん現わっだど。そして、
「おればも、当らせてくろ」
 なんて入ってきたど。そしてさまざまの話を仕掛げっじもの。しまいに、
「おれと術くらべしないか」
 なんていうたど。旅僧は、
「ほんだな、おれも、ちっと知ってだが、まずお前からやってみろ」
 ていったど。
「あんまりええ、そんではまず大入道になって見せっか」
 なんて、身なりを一ゆすりすっど、六尺にもなったど。旅僧は「ほほう、それだけが」ていうど、「いや、まだまだだ」て、また一ゆすりで天井板まで届きそうになったど。そうすっど、旅僧は上を見ないで、
「いや、これはおどろいだ。だが大きくなら、おれもなれるが、小さくは、ちいとむずかしいもんだが、なれっか」
 ていうたど。そうしたら、そんなことは造作もないなんて、今度クランクランと、とっくり返り、三尺ばかりになったど。旅僧は、「なんだそんなものか」ていうど、またクランクランとしたら、こんどは小さく小さく豆ぐらいになったど。そうすっど旅僧はやにわに握んで、フクデ餅の熱くやけた中に押し込んだら、キャーッて逃げて行ったど。そうこうしてるうちに夜が明けて、村の人たちぁ、旅の和尚さま、生きっだか死んだかなんて、ガヤガヤ来たごんだど。そして和尚ささ、何ごともなかったが、なんて聞いだら、
「コロコロと転んだ」て語り、「あれはきっとミコシイタチだと思う。おれに熱いフクデ餅に入れられ、火傷しったべから、何だか裏の方さ行ったようだから、行ってみんべ」
 なんて、みんなで行ってみたら、やっぱり穴があり、その奥でウンウンうなってる声すんので、唐鍬なんか持ち寄って掘ってみたら、やっぱり毛も白がかった古ミコシであったど。前の旅僧たちは大入道になったとき、見上げて喉を噛みつかれ、血を吸い取られて死に死にしたのであったべ。この旅僧は村の衆にうやまわれて、住職になって安泰に暮したけど。むかしとーびん。
「集成 259 化物寺」
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