42 鬼と豆のくいくら

 むかしあったけど。
 あるところに娘と父親と二人いであったど。なんぼかええ娘であったど。ほしたらこんど、山に鬼が、その娘を見込みつけてしまったど。そしてはぁ、毎日のように、
「欲しいがら呉ろ。欲しいが呉ろ」
 て来るごんだど。親父も困り果ててはぁ、
「何としたらええもんだか、一人娘、鬼になんて呉(く)っだぐないもんだ」
 と、こう思っていたど。そうして、娘、
「ほだら、おどっつぁん、おどっつぁん、あの、豆煎りの食いくらしろ。そして負けたら呉れる、と、こういうことにしろ」
 て、こういうたど。
「そんなこというて、鬼ぐらいなの食(か)んねぜ」
 て、こういうたど。
「おれ、何とか工面しておくから…」
 て、そう言うて、鬼来たとき、
「おどっつぁと豆の食いくらして、勝ったらもらわっで行ぐ」
 て、こういうたど。そしたら喜んで、
「あまりええ」
 て。それからこんど、娘一生懸命で豆煎って、鬼には娘のところばり見とれているもんだから、知しゃねふりして、小石混えて鬼の豆さやったど。こんど固く煎ってやったど。父親なは、や柔っこくええあんばいに噛めるようにやっこんだど。一ガラ(茶ほうじ一つ)ずつやったど。鬼は噛むと固いなガリッと噛まさっでしまうど。んだもんだから、困っているうちに、父親はみな食ってしまったど。そしてこんど、
「いや、今日は何だか、おれ、歯悪くて、今日は駄目だから、また後で来っから後で、また何か考えてて呉ろ。そんどきまた競争すっから」
 て、鬼帰ったど。そしてまた来たごんだど。そしてこんど、
「ほんだら、縄ない、今日はするが」
 ていうたど。そして藁、父親なは、柔かく打っておいで、・・ないよくしておいたど。鬼の縄、あちこち打っておいで呉っだど。そうして一生懸命でなうじど、鬼夢中になってなってるうしろさ行ってはぁ、そおっと鬼の縄切って父親なさ、こうた足すごんだずも。娘、うしろさ行ってな。そしてこんどその藁、鬼のどさも持って来るど。そして・・・なったのな、一ひろ、二ひろと、たごんで置くわけだな、環にして。そしてしまいに、ない上げてから、たごんでみたら、父親の方多がったど。そして、
「やっぱり、おら家のおどっつぁには敵わねから、お前みたいな下手な人さは嫁(い)がんね」
 て、娘にそういわっで、鬼もあきらめであったけど。利巧な娘であったけど。むかしとーびん。
「集成 248 鬼と賭」
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