40　狐むかし

　むかしあったけど。
　大石沢の方にも中津川の方にも、馬喰していて、むかし馬市開くと行って買ったり売ったりする、馬喰いてやったんだど。大石沢の馬喰が山に茸とりに行って休んでだば、狐が二匹集ばって、
「明日、おれ、馬市あるから、おれは大石沢の馬喰に化ける。お前は馬に化けろ、そして馬に化けて、こいつ、おれぁ高く売ってきて、ひともうけすっから、そうしないか」
　て、狐が相談したど。そしたら、大石沢の馬喰、
「これはええこと聞いた」
　そして、何時ごろ落ち合うということ聞いたもんだから、次の朝げ、大石沢の馬喰狐行かないうちに行ったって。そして、
「おいおい、早く行くぞ」
　て呼ばったって。
「ほう、うまく化けたな。おい、そのままだな」
て、その馬の狐が言うたって。そしてヒゴザ着て、笠かぶって小国のせりさ行って、その馬は一番高く小国の金持の伊勢屋という家さ売らっだど。そしてその馬喰はその金持って、ほくほくと家さ帰ってきたど。そしたら、狐は厩さつながっでしまったもんだから、逃げ出すに大時間とって、そしてまず杭破って縁の下を掘って、ほして、逃げて大石沢の馬喰になる狐のとこさ行ったど。
「この、なんだ。おれ、大難儀した。まず儲けた金、分けっだい」
　て、こう言うたって。
「何語ってるや、おれ、行ったときはお前いねがったでないか」
　そう言わっだど。
「いや、そんな筈はない。お前、あんがえ上手に化けてきたのに、そんな筈ない」
　て、二匹で大喧嘩したど。
「ほだども、ここの馬喰に、おらだはだまさっでしまったのだか、ほんでは今度は返報がえしして呉んなね」
　て、二匹で相談したって。そしてむかしは馬を利用して、ぶな畑さ朝草刈りに行ぐなだど。そん時、そのここの馬喰が、やっばり馬喰して、夜ぶらぶら通りかがったど。この道な…。そしたらこんど、なんぼかええ女に、行き会ったもんだど。
「こんな夜歩かねで、そこさおら家の家あっから、寄って泊れ」
　て、こう言わっだど。そして一杯きげんであったもんなだから、泊ったわけだど。そして、
「まず、湯さでも入って疲れ直すどええ」
　て、そう言わっで、湯さ入って、ええ気分で流したど。そしたば若衆、朝げ早く馬引っぱってはぁ、唄うたいながら、ぶな畑さ草刈りに行ったど。そうしたらその馬喰、裸になって、そのぶな畑に夫婦沼って、沼二つあんな、その一つの沼さ入って、がふりがふりと流していたど。
「なんだ馬喰、そんな朝っぱらから沼さ入って…」
　ていうた。
「何語ってる。こんなええ湯ない」
　て、入っていたど。
「そんなとこは沼だぞ」
　て教えらっで、気ぃついて、そしたば沼さ入ってあったど。狐の返報がえしさっだんであったど。
　そんな悪いことはするもんでないど。むかしとーびん。
「集成　238　狐と博労」
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