36 糠福米福

 むかしあったけど。
 あるどこに糠福という子ども生んで、おっかさ死んでしまったけど。そして後添えもらったど。んだげんど、そのおっかさにも子ども生まっだから、米福と名付けだんだど。
 して、大きくなっど、おっかさ、自分の産(な)した子どもばっかりめんごがっこんだずもの。衣裳でもええなは米福に買ってくれっど。して、秋になって栗いっぱいなった頃、
「お前だ二人で栗拾いに行ってこい」
 て言いつけて、糠福には袋さ孔あいたな持たせて、米福にはええ袋持たせてやったけど。ほして、糠福拾うども、何だか溜んねと思ったば、孔あいていだんであったずも。ほして、米福は、
「姉ちゃ後さ、くっついで歩くと拾われっこで」
 て、おっか教えてやったもんだから、後くっついて歩くと、その孔から落ちたな、ずうっとあっこんだずもの。んだから米福は一時(いっとき)に拾ってしまったど。
「姉ちゃ、おら、いっぱいになったがら、おら行ぐはぁ」
 て、米福は家さ来たずす、糠福はいっぱいになんねで、ほして栗林の傍に沼あっどこで、しょんぼり涙こぼしていたど。そうしたばその沼の水、がほがほ、がほがほと動いたと思ったれば、大蛇現われだつうものだもの。糠福は恐っかながって逃げんべと思ったら、
「逃げっことないぞ、お前のおっかだ。お前ばむごさくて、おれ浄仏さんねで、こうしていたなだから」
 て、そういうずも。そしてこんどぁ、おっかになって傍さ来たど。延命小袋と打出の小槌呉っだなだけど。そして、
「お前、困るようなことあったら、この打出の小槌ふれば、何でも出るからなぁ」
 て、そう言うて呉(く)っだど。
 それをもらって、まず、栗ば早速袋一つにして家さ帰ったど。ほうしたば、
「糠福、何のごんだ。今ごろ、米福など、さっきだにいっぱい拾って来たぞ」
 て、まずおんつぁっだど。
 そしてはぁ、そのうちに町にお祭りあるごっだずもんで、そこさ芝居師など来るなんて話あったど。  それ見に、米福、おっかどさ、
「連れて歩(あ)えべ」
 なんて、喜んではぁ、衣裳買ってもらって、連(つ)っでってもらうことになったど。ほれに糠福は、
「この米搗いで、それから来い」
 なんてはぁ、米搗き言いつけて行ったど。ほして一生懸命で搗いっだど。ほして、友だち衆も、
「糠福、見に行かねが」
 て呼ばっども、
「おれ、この米搗いでがら行ぐはぁ」
 て、行がんねつうなだも、一緒に。ほして、ほだどもみんな行ってしまってから、その米も「早く搗けろ」なて搗いではぁ、そして衣裳も自分が着たい衣裳、それ打出の小槌で出して着て、お祭り見に行ったどはぁ。そうして見てたば、こんど米福見つけて、
「おっかさ、おっかさ、あれ、姉ちゃであんまいか、あんなええ衣裳着て来ったわ」ていうたど。
「糠福、あんなええ衣裳持たねもの、ほでねぇ」
 そっちの方で見っだど。ほしてその人の帰んねうちにと思って、家さ帰って来てはぁ、知しゃねふりしったど。ほしたばそれ見に、隣村の庄屋の息子も行ってで、その糠福ば見染めだずも。そして、
「あれ、もらいたいもんだ」
 なていう話になってはぁ、そこの家さもらいに来たど。ほうしたれば、
「そんなの、おら家の糠福でねぇ、米福だべ」
 なて、おっかさは言うずも。
「いや、それでなく、糠福の方だ」
 て、そういうど、ほうして糠福ば、どうでももらわねねていうから、呉っだごっだど。
 ほして、御祝儀なっじゅうに、衣裳も買ってくんねがったど。糠福は自分で出して、立派な花嫁になってはぁ、そのあたりは、のりものなてながったもんだから、馬さのせてもらって、そうして貰わっで行ったど。
 それ見て、米福、
「おっかさ、おらも行きたいな」
 て言うずも。
「あんなええ衣裳きて、おれも馬さのって見だいなぁ」
 ていうずも。んだども、そんなこと出ねえんだから、あるうちの一番ええな着せて、脚立さでものせだかして、引張っているうちに、川さ落して死なせてしまったけど。むかしとーびん。
「集成 205A 米福粟福」
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