35 浦島太郎

 むかしあったど。
 ある日、太郎と名ついた人が、浜辺さ行ったど。そしたば子どもら集まって、亀おさえでいじめったど。結(ゆ)つけて引っぱったりして。
「こらこら、にさだ、むごさいから、その亀いじめねで、おれに売んねが」
 て。むかしのごんだから、一銭か五銭に買ったわけだべもの。そしてこんど、放してやったど。
 なんぼか釣りの好きな人で、そしてまた釣りに行ったど。そしたら大きな亀あらわれて、
「あの、浦島さん、浦島さん。おれは、いつか助けてもらった亀だから、その礼に、竜宮さ御案内すっから、おれの背中さのって呉ろ」
 て、そういうずも。そして太郎は喜んで、そんなところさ連れでってもらわれるなんて、仕合せだと思って、のったと。そしたば波越え、水の中くぐって、連れて行がっだど。そうして行ったところが美しい御門のどこさ着いだごっだずも。そしたらさまざまなお姫さまがお迎えに出てく呉っで、
「よく来ておくやった」
 て、はあ、喜んでその御殿さ上げてもらったど。そして、
「乙姫さまという人さ会わせっから」
 て、乙姫さまという人の前さ連れて行がっだことだど。そしたば、乙姫さまも大変喜んで、「人間なんていう人に会われた」て、大変御馳走呉っではぁ、踊りおどらせたり、その侍女たちに。毎日、御馳走して呉れたごんだずも。あんまりそういうこと毎日してもらったば、退屈して飽きてしまったど。そして、
「乙姫さま、おれも大抵にして家さ帰りたいから、家さ帰してくろ」
 て、願ったど。そしたら、
「何にもお土産くれることできないから、この玉手箱くっでやっから、これを、よほどのことない限りは開けないように、このまま持ってろよ」
 て、そういうて貰ってきたど。そしてまたその亀、迎えに来て呉っだもんだから、のせてもらって自分の家さ帰ったど。そして自分の家さ帰ったつもりだども、自分の家さがしても見当んねがったずもの。隣近所きいてみんべと思っても誰も、
「そんな浦島太郎なんて、この村にいでやったべか」
 ていうずなだも。
「何だべ、ここのようだが、おれの生れたとこは…」
 て思って探してみれば、山や川はそうなようだども、人はみな別なようだずも。そしてあんまりさびしいし、何入ったもんだかと思って、そのふたとってみたど。そしたば煙ぽーと出てきてはぁ、自分の髪、白髪のおじいさんに、煙でなってしまって、そしてはぁ、ますます誰にも分んなくなってしまってあったけど。三年だと思って暮しったども、三百年にもなっていたんだけど。むかしとーびん。
「集成 224 浦島太郎」
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