28 舌切り雀

 むかしあったけど。
 じんつぁとばんちゃどいでやったど、そしてじんつぁは柴切りに行く、ばさまはせっせと継ぎものしたり、糊つけたり、働いてあったど。そうしてある日、じさま、雀こ一羽とってきたずも。そしてはぁ、子ども持たないんだし、大事に篭さ飼って育てておいだどご、篭から出て餌呉っでも逃げて行かなくなったど。そして、ある日、
「ばさ、ばさ、雀の餌忘れんなよ」
 て、また山さ行ったど。そして外さ出して遊ばせて、ばさま、ええ空だし、糊つけんべと思って、糊こさえでおいて、そしてこんど、ばさま、布地見てるうちに、雀糊なめたもんだじも。そしてうまいもんだから、あらまし舐めてしまったど。それ、ばさま見つけて、こんど、
「なんだ、この野郎。にさか、舐めたな。待て待て、そんな悪いことする、舌など切って呉れっから」  て、ハサミでちょっきり、先の方切らっでしまったごんだずも。そして、
「どさでも行げ」
 なんて飛ばしてやったど。そしてはぁ、鳴き鳴きとんで行った夕方、こんど、じさま帰ってきたどさ、いねもんだど。そうすっど、
「ばさ、ばさ、めんごはどうした」
「おれ、糊つけすんべと思って、こしゃった糊なめだから、舌切って飛ばしてやった」ていうど。
「やれやれ、かわいそうなこと。そんでは、おれ探しに行って来(こ)んなね」
 て、そして、
「どっちの方さとばしてやった」
「そっちの方だ」
 なんていうもんだから、そっちの方さ行ったど。つかれて来たもんだから、杖棒ついで、
   舌切りすずめ お宿はどこだ
   舌切りすずめ お宿はどこだ
 て行ったば、竹やぶあったど。そうしたばいっぱいの雀がちゅんちゅん、ちゅんちゅんて出てきて、
「おじいさん、よく来て呉っだ。めんごのお宿はここだから、寄って呉ろ」
 ていうずもの。そして寄ったらば、
「その舌もよっぽどよくなった。いたみもとれた」
 ていうずも。そして、
「ええじんつぁだから、みんな御馳走してくろ」
 てはぁ、御馳走して、雀踊りなど見せてはぁ、御馳走なったど。そして「泊まれ」て、泊めてもらって、「帰って行ぐ」ていうたらば、
「お土産くれる。大きなつづらええか、軽いちっちゃいつづらええか」
 ていうたら、
「年いって、重たい大きなもの、背負わんねから、ちっちゃいな呉ろ」
 て、そういうたど。そしてもらってきて、家さ来て、こんど、
「ばさばさ、雀の家さ泊ってきた。そしてこういうお土産もらってきた。何入ったか開けて見っだい」
 て開けたど。中から絹の着物だの、さまざま軽いものなどはぁ、いっぱい出てきたど。ええもの。そうしたば、ばさま、
「ほんでは、おれも行ってみて来(く)んなね」
 て、次の日、こんど、ばさま行ったごんだど。そしたばあまり出迎えでも呉んねがったじども、「よく来た」ぐらいなこと言うたべちゃえ。そしてばさまも御馳走になってくるというたど。泊れて言わんねんだから、夕方くるというたど。
「お土産くれる。大きい重たいつづらええか、小さいつづらええか」
「力持ちだから、重たいなええ」
 ていうずもの。そして大きなもらって背負って来たずも。途中まで来たら、あんまり重たいし、開けてみたごんだど。そしたば、蛇だの百足だの蜂だの、いっぱい出はってはぁ、ばさまば刺すやら喰付くやらしたごんだど。ばさ、切(せつ)ながって泣き泣き家さ帰ってきたど。血だら真赤になって。じさ、夕方、飯炊いて食う頃だと思って眺めだば、向うの方から赤いぐなってはぁなぁ、音すっずも。あんな赤い衣裳もらって唄などうたって来たぜと、こう思っていたど。そうしたば血だら真赤になって、泣き泣き来たなであったど。そして、「なんだまず、ばさま」ていうたら、
「いやいや、これこれであった」
 ていうたど。んだから慾かいだり、あんな小さな者の舌など切るもんでないぜって、じさまにさとさっだど。むかしとーびん。
「集成 191 舌切雀」
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