25 行けざんざんの梨

 むかしあったけど。
 おっかぁが、また子ども生みそうになったど。ほしたば、行けざんざんの梨食だいていうずも。親父ぁ、
「ほんでは、おれ行ってもいで来っから」
 そういうて出かけたど。して、ずうっと行ったば、年寄った白髭の生(お)やしったじさまに行き会った。はいつどさ、
「行けざんざんさ行く道、ここであったべなぁ」
 ていうたば、
「ほだぜぇ、ほだどもこれから行くど、大きな牛寝でっから、その牛、尻追って、一ぺんで起きだら行けばええし、起きねばもどれ」
 そして、その次にこんど、
「大きな藤づる張っていっから、それデーンと踏んで、切れたら行けばええし、切れねば行ぐなよ。ほして滝あるどさ行って、行げざんざん、行けざんざんていうたら行げばええし、戻れざんざんていわっだら、もどれよ」
 て教えらっだど。そうして行ったば、ほの大きな牛寝っだずもの。「シーシー」て追うども、決して起きねど。
「あらぁ、起きねったて、行ったてもええがんべ」
 どて行ったど。ほうして行ったば、ほに、太い藤つる、道さ張ってだずも。「デーン」と、二度も三度も踏んでも切れねども、
「さしかえないべ」
 て思って行ったど。ほしたばなるほど大きな滝あったど。〈もどれざんざん、もどれざんざん〉て、その滝は聞えるずも。
「なえだて、ちょうどこの上側だもの」
 て思ってはぁ、登って行ったど。ほして行ったば、いや、実(な)ってだにも。ほれから登ってもぎ方しったば、ほに、にわかに暗くなってはぁ、お雷など鳴っずも。んだども、もいでだらば、こんどはぁ、向うの方からピカリピカリと光るもの見えっど。何だと思ったらば、それが梨の木の下さ来て、
「この梨もぐ者、上から呑むべか、下から呑むべか」
 なていうずもの。いや、恐っかなくてはぁ、親父はふるえて、梨さしがみついたど。そうしたば登ってきて、ツルッと呑まっでしまったど。
 ほして次の日になっても来ねもんだから、おっか、ほら心配すっど。ほしたら兄(あ)んにゃっこは、
「おれ行ってみっから…」
 て、そういうて出かけたど。そして行ったば、また年寄りに行き会ったずもの。そしてそういう風に教えて呉っだど。
「牛起きねば行くな」
 て。ほして行って、牛〈シッ〉と追ったば、一ぺんにもくっと起ぎだど。ほして次に行って、藤づる〈デン〉と踏んだば、プツンと切れだど。
「いや、ええがったども」
 て、滝の下さ行ったば、〈行けざんざん、行けざんざん〉と聞えるずもの。
「ああ、ええがった、ええがった」
 て思って、行ってはぁ、梨もぎしったど。ほしたばまた、そんでも曇ってきたずなだもの。ほうして向うからピカリピカリというもの来て、その下さ来て、やっぱり、「上から呑むべか、下から呑むべか」ていうずもの。その子はきかない子どもであったべちゃえ、山刀さげて行ったんだど。
「どっからでも呑め」
 ていうたど。そうすっどワサリワサリと長黒い光るものは、ひとつまなぐ目の化けものて昔はいうたもんだ。それであったど。そして登ってきて、手、つん出すど、その手はぁ、山刀で切ったずもの。そうすっど下さドスンと落ちっど、明るくなったど、ほうして行ったば、わけのわかんね大きな化けものだけど。そうして今度はぁ、兄んにゃこ、山刀で首さとどめ刺して、そしてまず、
「親父、もしや生ぎっだかな」
 て思って、腹さいてみたど。ほしたば生きてであったど。
「ああ、ええがった、ええがった」
 て、はぁ、梨は一背負いもぐ、父親の手ひかえではぁ、家さ帰ったけど。行けちゅうどさは行って、もどれて言わっだらもどるもんだけど。むかしとーびん。
「集成 176 奈良梨とり」
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