22 団子どの

 むかしあったけど。
 おじいさんとおばあさんといで、ばさまは流しではぁ、朝の御馳走つくり、じさまはお庭掃いでだど。そしたら大きな穂一本落ちてたど。むかしは穂一本でも粗末にしねがったもんだから、
「ほう、もったいない、もったいない。ばさ、ばさ、こんな大きな穂一本拾ったから、まず、これ搗いで団子でも拵(こしゃ)え」
 て、こう言うたど。そしてこんどその穂むしってはぁ、団子に作ったど。一つほかて、出ないがったど。まず「上げろ」って、お仏さまさ上げたことだど。お仏さまにネズミ穴あって、そさコロコロンとまぐっで入ってしまったごんだど。
「おやおや、こんど、ネズミ孔などあったんだな」
 て、じさま、その孔、こんど辿って団子さがしたごんだど。そしたばずうっと縁の下から軒揚の方通って、大きな穴開いっだずもの。それからこんど追かけて行ったど。そしたば団子、コロンコロンと転ぶずす、
   団子どの 団子どの
   どこまでござる
    新座の宮のこけら葺きの
    お堂の石地蔵の前まで
 て、また「団子どの、団子どの、どこまでござる」「新座の宮のこけら葺きのお堂の石地蔵の前まで」て。それから行ってもみたば、なるほど石地蔵立ってござったずも、
「地蔵さま、地蔵さま、団子来ねがったべか」
 こういうたど。
「あまりうまそうな団子一つ転んで来たけがらはぁ、食ってしまった」
 て、いうずも。
「やれやれ、おれもやっと穂一本見つけて拵えた団子ななであったけども」
 て、こういうたけど。
「ほんでは、まず仕様ないから、食ってしまったけがら、お前に何も礼の仕様もない。おれどさ鬼ども集まってバクチ打ちするから、今夜はおら家さ泊まれ」て。
「その鬼どもの金でも持たせてやっから」
 て、こういうたど。そして、
「この屋根裏さ隠っでで、ニワトリの真似しろ」
 て、こう言うて教えだど。そうすっど、地蔵さまのうしろの方から、屋根裏さ登ったごんだど。そしていたば、夜になったか、こんど来たずうもの。赤鬼に黒鬼に、青鬼に。
「なんだ、地蔵さま、地蔵さま、人くさいでないか」
 て、来たど。
「人なんて、いねんだぜ」
 て、こういうたど。
「いや、何だか人くさい」ていうと、「人など来ない」「ほだが」。そうして、丁だ半だて始めたど。ほうしているうちに大抵、一番どりええかなぁと思って、板ばパタパタ、パタパタ、コケコーていうたど。
「ほう、いつ何時のいっとき一刻なもんだなぁ、ほら一番どり鳴いだぞ」
 そして、いまちいと経(もよ)うずど、パタパタ、パタパタ、コケコー。
「はぁ、二番どりだ。さぁ夜明けっから、この金などしまってる暇ない。地蔵さま、また来っからはぁ、このまま行くぞ」
 て、みんな行ってしまったど。そしたば地蔵さま、
「じさま、じさま、降りてこい。みな鬼共、金おいて行ったから、早くこれ持って家さ帰れ」
 て、そうしてはぁ、それもらって家さ帰ったど。そしてばさまにそれ見せっだど。そうしたら、隣のばさま来たずもの。
「お前(み)たち、こらほどの金、なじょしてもうけてやった」
「いや、おら家(え)のじさま、団子一つさ追かけて行って、地蔵さまにもらって来たど」
 て、こう教えだど。そしたば、
「ほんでは、おらえ家のじさま、のらくらと何もしないでいっから、団子でもこさえで、んでは、おら家のじさまもやんなね」
 て、そして家さ行って、まず米櫃あちこち集めれば、一つこさえだごんだど。そうしてその孔さ入っでやったども、なかなかまぐれねずも。んだども、じさまゴロゴロとはぁ、転ばし転ばし行ったど。そして行って、地蔵さまやっぱし立ってござったど。
「地蔵さま、団子来ねがったべか」
「いや、来たけ。そらそこにある」
 つうずもな。
「ほだども、今頃来たでは、お前帰らんねべから、おら家(え)さ泊まれ。そしてこんど鬼共きて、バクチ打ちするから、この天井裏さ隠っでで、ニワトリの真似しろ。そうせば鬼共帰るから」
 ていうて、やっぱり教えだど。そしてそのじさまも登っていたど。そうすっどまた鬼共きた。
「フンフン、やっぱり何だか昨夜(ゆんべ)なから、地蔵さま、人くさいな」
 こう言うど。
「そんなはずないどもな」て。
「何だて、昨夜な、頼んで行った金もないし、おかしいぞ」
 ていうど。
「いやいや、そんな、人など来ないども、お前だ考え違いだべや」
 ていうたど。そしてそのうちに、「ほだか」て、また始めだど。そうするどはぁ、じさ、ええ頃だと思ってはぁ、「コケコー」なてはぁ、いうたど。
「何だか、今夜のとりは下手なようなトリだども、一番どりだな」
 なて、やっていっずもの。ほうして、つうともよ経うどまだ鳴いだど。
「二番どりだ。夜明ける。さぁ早く帰んねねで、まず、あの金、また頼んで行く」
 ていうど、じさま喜んではぁ、ケラケラと笑ったそうだ。
「そら見ろ、地蔵さま、人いたから…」
 つうもんで、「そら、探せ」ていうもんで、探さっでしまったど。そうしてこんどはぁ、引っぱり落さっではぁ、
「おれぁ頭食う、おれぁ足食う、いやおれは背中の方だ」
 なんてはぁ、みんなではぁ、あっち刺し、こっち裂きして食(か)ってしまったけど。ばさまは待てど暮せど、じさま帰って来ながったで、そしてはぁ、ばさまもさびしく過してやったけど。んだから人の真似なのするもんでないけど。むかしとーびん。
「集成 184 地蔵浄土」
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