5 かちかち山

 むかしあったけど。
 じさま、火野(かの)の豆蒔きに行ってで、
「一粒、千粒になれ」
 そこさ、むじな出てきて、石さ腰かけて、「一粒、一粒できずがれ」て、こういうたど。そうすっど、じさま、鍬で、「この畜生」と叩く気になったど。そうすっど逃げられた。翌日、モッチ(鳥餅)もって行って、石さ塗っておいた。そしてその石さ腰掛けたどこば叩いだんだど。むじなは死んだふりした。じさ、家さ持って行って、
「ばさ、晩げ、むじな汁しておけよ」
 て、また山さ行った。
 ばんさ、小屋で米コ搗きしてたら、むじなは、
「ばさ、ばさ。おれ搗いて呉れんべ」
 て、こう言うた。
「いや、また、じんつぁ帰るころ、おれば縛って下げるんだ」
 て、こう言うた。そうすっど、ばさまが降ろして米搗いてもらった。
「ばさ、ばさ、搗けたが何だか見ろ」
 ていうた。ほうして見るどこ、頭搗かっで、ばさまの着物きて、ばさまに化けてだど。むじなはばさまの肉剥(は)いで、むじな汁こさえだど。じさま帰ってきて、
「なんだか、このむじな、しないな」  ていうたど。そうすっど、
   しないもしないも 道理がさ
   むじな汁食て ばば汁食った
 て、おどって逃げあがった。
 じさまが不思議に思って縁の下見たば、ばさまの死骸があった。じさま悲しんでいたどこさ兎きて
「なして泣いっだ」
 て聞いで、じさま、
「こういうわけで、ばさま殺さっだ」
 ていう。
「仇とってくれっから、泣くなよ」て、兎ぁ言うたど。兎がむじなのどこさ行って、「柴刈りに行かねか」て、さそい出したど。そして柴とったな、むじなさは、燃えそうな背負わせだ。途中まで来ると、兎が、
「ああ、病めて、とても歩かんね」
 ていうたど。むじなは、
「おれの柴の上さ、あがれ」
 て、柴の上さあげて呉っだど。カチンと火打ち石で火をつけたど。
「何しった。火打ちのような音するな」
「あれは、カチカチ山のカチカチ鳥よ」
 て、兎が答えた。そのうちに、ぼんぼんと燃えると、ぴょんとはね降りて逃げて行った。そして家さもどると、南蛮と味噌とねり合せてこさえっだど。そしてむじなの家の前で、
「火傷の薬いらんか」
 といった。
「ああ、切ない。ああ、切ない。早くつけて呉ろ」
 ていうたど。そうすっど、背中じゅう味噌、でごでごと塗って呉っだど。
「いたい、いたい」て苦しむどき、「ばばの仇討ちだ」て逃げだど。そして逃げるとき、
「いやいや、兎、兎、お前、この間はひどいことしたな、おれの背中さ火つけて逃げだでないか」
「それは、カチカチ山のカチカチ兎だべ。おれは薬売りの兎だから知らね」
 て、杉やぶさ行った。そして今度は、舟を彫ってだて。そさ、ようやく背中なおって、むじな来たど。
「兎どの、兎どの。お前はひどいことする。おれの火傷の背中さ南蛮味噌塗らっだ」
「それは薬売りの兎で、おれは杉やらの兎だから、知らね」
 ていうど、むじなは、
「それ、何するもんだ」
「川さ持って行ってのっど、面白いもんだ」
「おれに一つ造ってくんねぇか」
「あんまりええどこでない」
 ほして、自分のは杉舟、むじなには土舟造って呉っじゃ。そして二人で磯まで持って行って川さ浮かべだど。そして、 「杉舟こんと行け」て叩くど、兎の舟はすうと行った。むじなは、
「土舟、こんと行け」て叩くど、ざくっと割れて、川さ落ちて死んだけど。むかしとーびん。
「集成 32B 勝々山」
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