３　猿と蛙の寄合餅

　むかしあったけど。
　蛙(びっき)と猿、いでやったど。そして猿は、
「蛙ぁ、おれと二人で寄合田作んねが」
　て、こう言うたど。したば、「ええ」て二人で作って、畔(くろ)ぬりに行ったど。畔は塗ったども、次、田うなう段になったど。そして蛙は、
「猿殿、猿殿、今日は田うないに行くぜ」
　て、寄ったど。
「いや、今日はとても頭いたくて行かんね」
　て、こう言う。仕方ないから、蛙は一人で行って、その田うなって来たずも。そして、その次の代掻きして田植になったど。
「猿殿、猿殿、今日は田植だから、行くぜ」
　て呼んだら、
「今日はとても腹病(や)めて行かんね」
　て、こういうど。
「ほんでは仕方ないから、おれ一人で植えて来(く)んぜ」
　て、そう言うて、蛙は植えてきたど。そしてこんど、田の草取りになったど。
「猿殿、猿殿、田の草とりに行くぜ」
「いやいや、今日は疝気(せんき)病(や)めで、とても行かんね」
「いや、ほんでは仕方ない。疝気では冷(ひ)えっから、大事に寝てろ」
　て、今日は田の草も一人で取ったど。そして秋になったど。
「猿殿、猿殿、稲刈りに行くぜ」
　て呼んだど。
「いやいや、今日は何だか、とても気持わるくて行かんね」
ていうど。
「ほんでは、おれ、刈って来(く)っから」
　て、そして、蛙は稲も自分で刈って来たど。そして、
「それを粉にして餅搗いて食うべ」て、こう言うたど。そしたば、
「今日はおれも嵌(は)まる。今日は元気だ」
　て、二人してそれを粉にして餅搗いだど。そしたら、猿の言うことには、
「ただ、蛙、この餅食っては面白くないから、裏の金比羅山まで背負い上げて、この臼、まくってみないか。そして下で早く来たものは、拾って食うことにしねえが」
　て、そう言うたど。蛙も仕方ないんだから、「おい」て、登ったど。
「よし、おれ背負って行ぐがら」
　て、背負い上げたど。そして金比羅山から、ごろんごろんと、まぐったど。猿は早く下まで来て、待ち構えっだど。その餅拾うべと思って。そしたば、蛙は後からピタン、ピタンと来たば、臼に餅くっついでだらええがったべに、くっつかないで、途中の柴やなんかさ、みな餅くっついではぁ、途中にあったど。それ蛙が拾い集めてはぁ、いっぱい持って来たど。そして来てみたば、臼が下まで来て、すとんとかぶさって、蓋さってあったずも。そして、
「早く、蛙、開けてくろ。早く、蛙、開けてくろ」
　ていうずも。そんではぁ、脇さ餅置いではぁ、臼まくして、猿ば出して呉(く)っだど。そしたば、猿はさっぱり餅も食(か)んねで、臼の中さ入っていだでぁ。蛙はこんど、餅千切って食う。猿はけなり（うらやましい）くてはぁ、
「そっちの方食うんだ、そら下がるぞ」
　なていうずも。そしてしまいに、
「おれにも、ちいと呉んねぇか」
て、こう言うずも。
「ほだども、先に拾った者、食うごどにしたなだもの」
　て、こう言うずも。
「そんなことやねで、おれにもちいと、呉れちゃ」
　て、こう言うたど。そうすっど、蛙は今までのことあって、あまり面白くないもんだから、中の方の熱いどこ取って、頬っぺたさピタンとぶっつけで呉っだど。
「ああ、あちちち…」
　猿、むしり取って食べたど。
「いま、ちいと呉ろちゃ」
　こんどまた、熱いどこ、中から別な頬っぺたさペタンとぶっつけだど。
「ああ、あちち…」
　むしりとって食べて、猿ぁ、それから顔赤くなったのであったど。
「集成　21　猿と蟇の餅泥棒」
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