22 猿蟹合戦

 むかしあったけど。
 猿と蟹ぁいだったど。猿なんていうな、何か味つけんだ、猿かしこい。猿ぁ飯 食ってみたくて仕様ない、味付けだ。
「カニをだまがして…」
 猿は柿の種もっていだったそうだ。そいつ取換えて食ってくれましょうと思っ て、カニどさ行って、
「おれぁ、うんとええもの持った。ヤキメシと取換えねが」
「何や」
「柿の種子、こいつ蒔いて置くんだれば、じきに伸びて実ぁなって食れる。ヤキ メシなど食ってしまうど何もないそ」
 なて。カニは考えっだ。そして柿の種子と取換えでしまったどな。そうすっど カニはまず、家さ行って、庭の畠さ、ええあんばいにして、そこさ種子蒔いたど。 毎日水かける。ずんず、ずんずと柿の木ぁ伸びた。ど、カニは、
  ならざら ハサミ切る
  ならざら ハサミ切る
 なて、毎日行って水かけて育(おが)したずも。そしてとんと秋になって、こんどは実ぁ なった。
「こりゃ大したもんだなぁ」
 て眺めっだら、どっからだか猿はチョロチョロと来て、
「ああ、なんだ」
「いや、柿なった。見てくろ、まず」
「ああ、ほだ。これうんとうまいもんだ」
「ほうか」
 そう言うど、猿ぁ木さピタピタと登って行って、猿ぁ食いかけて渋いもんだ、 「おっとっと」なて、食いかけたの、やたらに投(ぶ)って、カニどさぶっつけたりな んかする。カニはぶっつけらっだもんだから、そこら痛くしてはぁ、まず、やっ と家さ来た。猿の畜生はやたらにええどこばり食って逃げて行きあがった。
「よし、あの野郎ぁ、ひどいことして行きあがった。殺して呉んなね。よし仇とっ てくれんなね」
 そしてまず、今度は、臼だの卵だの、蜂だのが来て、
「ほんじゃここさ呼ばって、やってしまえ」
 なて評判したど。猿ぁ、家さ行ってから、またカニどこだまかして呉んなねな て、パタパタ、パタパタて来た。
「いたか」
「いた。よし、寄れ、まず」
「ああ、ほうか」
 なて、カニの家に寄った。カニはまず、ちゃんとはぁ、炉のどこさ卵埋めっだ わけだ。それから味噌ガメのどこさ蜂、井戸のどこさ自分が行って、厩の二階さ 臼が上がって待ってる。そうすっど牛のカエシ(糞)は戸の口さ居た。そして知 しゃねふりしていたんだな。そうすっど猿、
「うう、寒いな」
 ていたけぁ、火所(ほど)、ほげだけぁ、卵がバエンとはねだ。「いたたた」。こんど、
「ああ、喉かわいた」
 なて、井戸さ行って水飲むと思ったら、カニはきいっとはさんだ。
「いたい、うう」
 なて言うけぁ、味噌なめてくれっど思ったら、蜂がぶうんと飛んできて、チカッ と刺した。
「いたたた、こげなどこさ居られるもんでない」
 なて、厩から逃げて行くと思ったら、牛の糞ゾロッというけぁ、猿はつんのめっ て、そうすっど二階から臼ぁドーンと落ちて来て、ビッチョリつぶさっだど。ほ んで、仇討ったけど。どーびんとん。
(遠藤昇)
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