20　由井正雪

　由井正雪は忍術を心得っだていうわけで、侍が五・六人、寄り集まってよ、
「正雪殿、あなたは大変、日本国内のことばかりでなく、キリストの術も心得て いるて、いうもんだから、おらだに忍術というもの、なじょなもんだか、おらだ にやって見て呉(く)んねぇか」
　そしたら、
「ほうか、ほんじゃ、なじょなもんだか、おれはこれからやっから、ちょっとし たとこ見てくろ」
　て言うたど。そうしたところが、それまで天気のよかったのが、にわかに暗く なって来てよ、墨流したような天気になって来たかと思うど、竜光（たつびかり） などして来たってよ。そしてお雷さまが、しどもなくなったりして、百雷一時に 落ちたような塩梅だったど。そしてこんど、雨が岡立ちになって来たど。同時に あたり見っど誰も人いなぐなって、自分一人になってしまった。そしたら川上か らどんどんという大嵐の桶撒いたように、家など流っで来て、とても恐ろしくなっ て来て、大水に逃れらんね。命もたまんねと思ったもんだから、
「どうか助けて呉ろ、助けて呉ろ」
　と、こういうふうに、お侍が大声上げて、しゃなったど。そうしたところが、 同時に、大水やらお雷やら、すかっと止んで、そのぐるりさ居た連中が、五・六 人、青ざめで、
「いやいや、正雪殿、あなたの忍術には、ほとほと敬服した」
　というたど。正雪は剣達者であり、術も心得た人だったど。
(斉藤捷太郎)
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