19 長者ばなし

 伊藤家の何代か前の人が、山好きで、山さ山菜や茸とりに行ったてだな。
 ところが、そこで大蛇の化身に会ったわけだ。そして毎日、ヤキメシをもって 行って、半分わけて呉っで、懇意になったわけだな。ところが大蛇が言うには、
「世の中に恐ろしいもの、そなた何があるもんだ」
 て、聞がっだていうわけよ。ところが、
「おれは金ほど恐ろしいものはない。金ていうものは、兄弟でも親子でも、何で も仇になってしまうから、金ほど恐ろしいものはないて考えている。ほんで間に 合うほどさえあればええ、金くらい恐ろしいものはないて、おれは考えている」
 ということを話してたていうわけよ。そしてだんだんに長くつき合いしてるう ちに、不思議なこと感じたわけだ。
「これは何か変だ」
 行き会うたんびに体のかげがちがう。弱くなってくる。長くつきあいしていっ ど、こいつは魔物だから、やられるということで、
「こんどは、おれも体弱くなって、山さも来らんねぐなった。明日から来る気は ないなだ」
 こう言うて、山歩きをやめにすることを語ったってな、その次の日、見舞いに 来た。ところが大きい袋さ金いっぱい持(たが)って来たど。その金がもとで長者になっ たんだど。
(嵐田勝見)
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