15 古屋の漏

 むかし、じじとばばいだったど。そして、じじとばば、達者なもんだから、稼 いで畠だ、なんだて一生懸命かせいで金貯めたんだな。
 そこで、馬喰は、ええ馬引っぱって行って、
「これ買っておけ」
「ほんじゃ買うかな」
 て言うわけで、その馬買ったど。ところが夜になったど。雨ぁざぁざぁと降る。 ばば、
「いや、今夜あたり、狼ぁ来(く)んであんまいか」
「いや、狼などは大したことない。ただおら家は古屋で漏る。そいつばっかりおっ かないなぁ」
 そのうちに馬喰はええ馬売ったもんだから、来た。また暗いもんだから、馬喰 わかんね。馬屋のとこさ行ったげんど、なかなか馬出さんね。狼はまた古屋の漏 るざぁ、よっぽどおっかねぇもんだと思った。そして馬喰は馬だと思ったべぁ、 狼ば押えてしまったんだな。そうしてその狼にのったんだど。耳おさえてな。ほ うしたら狼、古屋の漏るだどて、まず魂消たの、魂消ねのて、いっさんかけて山 の方さ逃げた。ところが、叩き落さっでもいらんねもんだから、狼の耳、ぎっし りおさえてのって、アパタパと駈けて行ったところが、山さ行って狼は穴のどこ さ飛び込んだ。馬喰はつっかえって叩き落ちてしまった。
 やっと気付いて、
「いや、おれ、馬さのった気して来たら、狼の畜生さのって来たんだな」  て、そこら痛くしてやっともどって来たど。んだから、われごどざぁさんねん だけど。とーびんとん。
(遠藤昇)
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