12 屁たれ嫁

 ええ女だげんど、寝屁をたれる女で、どこさも仲人されねくて、家さおはにし て置いっだて言うわけよ。
 ところがそいつを、
「寝屁ぐらいだれば、仕方ないから、女振りもええし、体格もええなだから、お れはもらうべ」
 て、もらった。
 ところが、舅は炉端であたってで、
「屁はずいぶん大きい屁たれるんだが、なんぼ大きい屁たれられっか、おれ許す から、たれでみろ」
「ああ、んだがっす。おれ、こたえているもんだから、ひどいくて居たどこだ。 許してもらえっこんだら、おれ、屁たれっから、舅さま、アテギブチ押えてて呉(く)ろ」
「何をそんなこと、アテギブチ押えていらんなね、なて、おれはそんがえ、アテ ギブチ押えんなねな屁、にさ(お前)たれっことが」
「いや、まず、アテギブチ押えてておくやい」
 というたところが、嫁がたれた。その屁が大きくて、舅、アテギブチと一緒に 火棚の上さあげらっじゃどこだど。そうすっど息子は帰って来て、
「何しった。そがなとこさ上がってあぶない。年寄りは何しったごど」
「いや、とんでもないごんだ。屁くらいだらええがんべと思って、屁たっで見ろ なて言うたら、とんでもない、アテギブチがらみ、ここさ上げらっじゃんだ。こ いつは送って行って、置いて来い。こんじゃ嫁に置かんねがら」
「いや、ほんじゃ仕方あんまい。置いて来(こ)んなんまい」
 こういうわけで、家元さ送っどき、原っぱにすばらしい高いところの梨の木あっ て、その梨さ誰も石バイ投(ぶ)ったり、何かしても、もがんねもんだから、梨いっぱ い付いっだ。
「あれはうまそうな梨だが、誰ももいで食った人がない。こいつ一つとって食(く)だ いもんだな」
 て、夫(ごで)は石投(ぶ)ったりしてみたげんど、そこまで届かね。
「そがえなもの、雑作ないな、おれ、屁でもがれる」
 て言うて、
「なに、そんなことつかすごんだ。ほんじゃらもいでみろ」
 ていうたら、尻をグラリひろげて、上に向けてやったら、梨はボタボタ落ちた。
そして食ってみたら、ちいと臭いげんど、うまい梨だ。
「ほんじゃ、こいつ持(たが)って家さ行って、親父は何て言うか食せてみっから、歩(あ)い でみろ」
 て、そっから戻って連(せ)て来た。そして親父に誰も食ったていうことない梨をも いだんだし、梨食せたところが、
「いや、これはうまい梨だ、んじゃ仕方ない。そがなええことすっこんだら、ま ず置いて見んだ」
 こういうことで、嫁は戻って来たど。どんびん。
(嵐田勝見)
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