9 角力の話

 代々、三十郎というじじは、人並より小さかったんだな。体格はな。小さいと きから、みんなに馬鹿にされることを非常に気にしったんだな。
 それでお不動さまさ、三、七、二十一日の無言の行をして、三人力を授けても らいたいということで、願かけたわけだ。そしてお篭り堂さ二十一日間、垢離を とって信心したところが、満願の日の夜、お不動さま現われて、
「三十郎、三十郎」
 て呼ばらっだ。そいつ音立てねどええがったげんども、「はい」と、こう言うた。 それでパッと目覚ましてみたところ、
「なるほど、今日満願の日で、無言の行て言うたに、おれは〈はい〉と言うた。 ほんでは二十一日が水の泡になったか」
 て、力落して前に、三十郎石―今もある―七十貫目の石を持(たが)ってみたところが、 肩まで上がった。そしてだんだんに考えてみたところが、力が半分にさっだ。音 立てねど三人力になられっかったげんども、音立てたために半分しかもらわんね。 それでもその三十郎という人は角力はつよくて、東京まで行って、身なりは小さ がったげんど力は強かったという話だ。
(嵐田勝見)
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