5 魚女房

 三沢村(米沢市)に非常にねっか(けちんぼ)の人が、物がいたましいために、 オカタも取んない一人子で暮して、非常に金を貯めっだ男がいだったど。だが食 うものはうまいもの食いたいじし、道楽もなったし、そしてその男は城下に来て、 買物して帰っどき、魚をとって、そいつをもて遊んでいた子どもがおったど。と ころがそいつを、ちょっとその時に考えたところが、
「はて、こがえ小(ち)っちゃこい魚を取って、にさだ(お前たち)殺すごんだれば、 むごさいごんだから、こいつ、おれさ売れ」
 ということになって、その魚を川さ放したど。そしたら大変にその魚は喜んで、 上の方さのぼった。
 そのうち、その男は仕事をするために、頭(かしら)の山へ行ったところが、ちょっとこ こら辺で見ない者が現われて、
「こっから米沢まで行ぐには、どう行ったらええがんべ」
「とにかく、晩方なもんだし、おれはここまで行んから一緒にあえべ」
 と、こう言うて来たところが、その男の家さ来たところが暗くなった。
「これから暗くなって米沢さ行ぐにも大変だから、おら家(え)さ泊って行げ」
 と、こういうことになって、
「ほんじゃ、おれが料理して食せる」
 ということ言わっじゃために、その男は、その女に夜飯たのんだというごんだ。 ところがすばらしくうまかった。そしてあがな料理上手だれば、
「おれは一人っこだ。まずおかたも取んないでいらんねし、おら家にしばらくい て呉れねが」
 と、こういうこと頼んだれば、
「いや、おれも身より頼(た)よりのない者だから、あまりええごんでない。居てなど もらえっこんだらば、ええどこでない」
 こういうこと言って、そこの家さ住みついたわけだ。
 ところがそこさ好奇心ができて、随分これは金も使わないし、小遣いも呉ろて 言わないから、なじょな料理するもんだか不思議だと考えていたもんだから、料 理すっどこ見っだど。そしたところが腹さいて、腹から卵を出した。そして魂消 て、
「こういうこと、おれは見て悪れということを言わっじゃんだげんども、見たと ころが、こういうわけだ」
 と聞いたところが、
「それ見らっじゃごんだれば、おれは話する。実はおれはあなたに何年前に助け らっだ鮭の子だ。その恩返しに、人になって、あなたに恩返ししたどこだ。そん で見らっではこれっきりだから」
 て、鬼面(おもの)川さ入った。それからというものは、鬼面川さ、マス、サケとか戻っ て来るようになったという話だ。その家は今も笹原にあるど。
(嵐田勝見)
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