4 姥捨 

 むかしあったけど。
 じじと息子はいだっけど。ところぁ、その息子は孝行息子だったど。ところが 国の殿さま、
「年寄り六十二才になっど、穀つぶしだ。家さ置かねで山さ捨ててこい」
 ていう触れ廻したど。そうすっど、孝行息子は、
「いや、こりゃ困ったこと出たもんだな」
 て、何日か、まず悩んだんだな。やむを得ないもんだしはぁ、親父、山さ置い て来る他、手ないて、ヤキメシ少し握って持(たが)って、その親父を帯で背負って、そ して山さ出かけて行ったんだな。そうすっど、ヤブやら漕ぎ立てて、西の方から かまわず漕いで行ったら、背中に負(お)ぶさって、親父は、ポキッ、ポキッて木を押(お)折(しょ)っ て…。
「なえだ。何でそがえ木など押折ってる」
 て聞いたところが、
「お前、帰りに道わかんなぇぐなって帰らんねぐなっど悪いから、ずうっとわか るようにして行くなだ」
「いやいや、そうか」
 なて、ずうっと西の方向いて、何里と行ったずだな。そしてきれいなどこさ行っ て、木などのどこにカラスなど鳴くし、死んだ人などいたりしたし、カラスは食っ てだし、やたらに死んでいる。
 親父を降ろして帯で落ちたりしないようにしてくれて、そしてまずヤキメシを 呉っで来たところが、木押折ったのを目当てして、かまわず家さもどって来たん だな。その息子も孝行息子なもんだから、とても夜眠ぶらんね。
「親父、ぶん投げて来たが、今なんとしったんだか」
 て、眠るに眠らんね。こんど夜中に起きて、また山さ行ったど。ほうして飯(めし)与 えて来たから、死にゃしなかった。それから親父背負って連(せ)て来たんだな。
 こんど、役人がずうっと廻ってくる。それでいたりなんかすっど、とんでもな い罰着んべし、何とかして呉れっかと考えた結果、穴倉さ入っで隠しった。
 ところぁ、代官所の命令で、灰で縄なって持って来いということになった。
「はて、灰で縄なってて、なじょなことするもんだか、こりゃ困ったもんだ」
 て、穴倉さ行って、親父に聞いた。
「灰で縄なってもって来いという、なじょしたらええ」
「ああ、そんで、縄なったな、そくっと焼いてもって行くと、けっして崩さねで そっともって行げ」
 て言う。
「ははぁ、なるほどな、これ持って行って…」
 て、代官所さもって行ったど。
「なかなか考えたな、ほんじゃ」
 こんど、二尺ばりの棒もって来て、「元、裏、どっちだか当てられっか」て、平 らに削った棒出したそうだ。
「こりゃ困った。どっち裏だか元だかわかんね。今夜一晩、おれに考えらせてみ ておくやい」
 て言うわけで、まずその日は引き取って来て、家さ来て、親父に聞いてみた。
「うん、そがえなものは、タライに水汲んで浮かしてみろ、そうすっど元はちい と沈むから、それで分がっこで」
「はぁ、こんじゃ」
 て、次の日また行って言うたところが、また当った。
「はぁ、お前はなかなかの奴だな、何かあんでねぇか」
 ということ聞がっだ。
「いや、何もない」
「何かお前一人の考えでないようだな」
 今度は詮議さっだもんだから、ついには落ちたんだな。
「おれは、六十二才になる親父おったげんども、とっても山さ行って置いて来た ものの、とっても眠らんねくて、また戻して来て、何とも仕様なくて、家の中さ 隠しておいでで、その事聞いだんだ」
「はぁ、まず、それではお前、命なくなる」
 なて言わっじゃごんだな。
「命なくなったて、おれはかまわね」
 そしたら、代官ではそのこと殿さまさ教えだごんだな。そうすっど殿さま、 「いや、年寄りは、んだから粗末にさんね。それは大したもんだ」
 て、遂にごほうびもらって、家さ帰ったど。それからじゃ、その土地の殿さま は年寄りを無沙汰にしないで置いっだったけど。とーびんと。
(遠藤昇)
>>かっぱの硯 目次へ