3 くいごこむかし

 むかしあったけど。
 おじいさんとおばぁさんがいだっけど。
 あるとき、おばぁさんが川端さ洗濯に行ったところぁ、向うから赤い小箱と白 い小箱と流っで来たど。と、おばぁさんは、
  赤い小箱 こっちゃ来い 白い小箱そっちゃ行げ
  赤い小箱 こっちゃ来い 白い小箱そっちゃ行げ
  赤い小箱 こっちゃ来い こっちゃ来い
 て、小箱拾って来たど。そうして家さ来て、その赤い小箱開けてみたところぁ、 中から、くいごこぁ出てきたど。
「あらららら、これぁめんごいくいごこだ。おじいちゃん、ほんじゃこのくいご こ育てんべねぇ」
 なて、そうしておじいちゃんと二人でくいごこ、大変かわいがっているうちに、 くいごこはだんだんと大きくなってよ、体も大きくなって、力も強くなって、あ る時、くいごこは、
  じじものれ クェンクェンクェン
  ばばものれ クェンクェンクェン
  じじものれ クェンクェンクェン
  ばばものれ クェンクェンクェン
 て言うずも。「なえだごど」て聞くじど、また、
  じじものれ クェンクェンクェン
  ばばものれ クェンクェンクェン
 て言うもんだから、
「なえだごど、のれて言うのだどれ」
 て、おじいさんとおばぁさんが、
「なぇだ、くいごこ。お前、ほげな、おらだ二人のせられんなが」
  じじものれ クェンクェンクェン
  ばばものれ クェンクェンクェン
  カマスもつけろ クェンクェンクェン
 て言うごんだずも。
「ほだか、ほだか」なて、おじいさんとおばぁさんがのって、カマスをつけて、 それから鍬もつけろなて言うもんだから、鍬もつけてのったところが、くいごこ はトコトコ、トコトコと歩き出して、だんだんと山さ行ったど。
 山の方さ行って、そこでくいごこは止まってよ、
  ここ掘れ クェンクェンクェン
  ここ掘れ クェンクェンクェン
 て言うごんだど。ほうすっど、おじいさんとおばぁさんとそこさ降ちて、掘っ てみたところが、何とその土の中から大判だの小判だの、宝ものだの出てきたず も。
「いやいや、こりゃ大したもんだ、こりゃ」
 なて喜んで、おじいさんもおばぁさんもはぁ、カマスさ入っで、こんどはくい ごこはまた、
  じじものれクェンクェンクェン
  ばばものれクェンクェンクェン
  カマスもつけろクェンクェンクェン
 て言うもんだから、くいごこさのって、カマスもつけて家さ来たど。ほうして まず炉端さもってきて、カマスあけて眺めっだどこさ、隣のばっちゃ、火もらい に来た。
「火一つ、呉(け)てけらっしゃい、まず」
 なて、ガラッと戸開けて入って来たらば、カマスから宝ものだの、大判小判な ど出して、そうして眺めっだもんだから、
「なえだまず、こっちの家ではまず、どっからもって来(こ)らったなだ。まずこのいっ ぱい、ええごんだごで。こりゃ」
 なて。
「いやな、実はこういうわけで、くいごこに教えらっで掘ったところぁ、こうい うものいっぱい出てきたど、これ」
 て言うもんだから、その隣のばっちゃが、
「ほんじゃ、おれもくいごこ借っで行って、掘んなね」
 なて言うけずぁ、火もらいしったのもやめてよはぁ、ほうしてテンテンと家さ 行ってしまった。ほうして今度、おじいさん連れて来て、
「くいごこ、貸せ」
 ていうもんだ。「貸さんね、貸さんね」て言うげんども聞かねでは、くいごこ引っ ぱって行ったごんだど。ほうしてのれとも言(や)ねなさのって、掘れとも言(や)ねなさ掘っ たもんだから、その隣の欲ばりじいさん、ばぁさんが掘ったどこさは宝ものも大 判小判もさっぱり出ねで、馬の糞だの、ほげなものばり出てきたんだど、ほうすっ ど、
「この畜生、ほに、ごしゃっぱらやげる」
 なて、ねっから借っで来たくいごこはぁ、殺してしまったんだど。ほうしてこ んど、おじいちゃんもおばぁちゃんも、なんぼ待ちても、くいごこ連(せ)て来ねもん だから、
「なえだべ、こりゃ。行ってみて来(こ)んなね」
 なて、隣の家さ行ってみたところぁ、可哀そうに、くいごこ殺さっでいだんだ けどはぁ。
「いやいや、こりゃむごさい、ほに、せめてほんじゃくいごこの死骸もらって行 かんなね」
 なて、おじいさんが泣き泣きそのくいごこ背負って来てよ、ほして、家の前さ お墓に葬ったど。そして花を植えたり、線香立てたり、松の木一本植えだどこだ ど。そうしったところぁ、その松の木だんだんと大きくなって、太くなって、大 きな木になったごんだど。と、おじいさんは、
「いや、こがえに大きくなった。こりゃ。はてな、こいつでひとつ、臼でもこさ うがな」
 なて、こんど松の木伐り倒して、おじいさんが臼彫ったごんだど。そうして、 おじいさんとおばぁさんと二人で餅搗いたど。
 ほうしたところが、餅の中から大判だの小判だの宝ものだの、いっぱい出たご んだど。
「おやおや、こりゃ、またすばらしい、すばらしい」
 なて魂消てよ、その宝もの眺めていたところさ、また隣のばぁさんが来たごん だけど。その大判小判、宝ものながめて、また家さ行っておじいさんどこ連(せ)て来 てよ、こんど、
「臼貸せ」なて、
「いや、こんどは貸さんねぞはぁ、貸さんねて、貸さんねて」
 て言うげんども聞かねで、その臼もって行って、家さ行って、隣のじじとばば で餅搗いてみたげんども、大判小判どころか、何にも出ねがった。
 またこんど、「うん、ほに…」なて、ごせやえで、その臼はぁ、
「こつけなもの、割ってしまえ」
 て、ほうして木割り斧で割ってしまったどはぁ。そうしてムチャクチャにして カマさくべて焼いてしまったはぁ。
 こっちはおじいさんとおばぁさんが、なんぼ経(もよ)っても臼もって来ねもんだから、 また行ってみたところが、
「あんげな臼、焚いてしまったはぁ」
「なえて言うごんだごど。まず、ほだから貸さんねて言うたに、ほに、聞かない で。ほんじゃせめてその臼焚いた灰ばりも、もらって行かんなね」
 なて、おじいさんが泣き泣きその灰さらって、笊さ入って持って来たど。そう して家さ持って来て、
「こんど肥料(こやし)でもすんなねごではぁ」
 なて、木さその灰かけたところぁ、不思議にも美しい花咲いだごんだど。
「あららら、こりゃまず、なえだまず、節でもない今頃、花など咲いた。なえて いうごんだべ、まず」
 こんど今一本の木さかけてみたところ、またその木もパッとみごとに花咲いだ。
「いや、これはすばらしいもんだ、こりゃ。いざこがえに珍らしいこと、こりゃ。 お殿さまでもお目にかけんなねごで」
 なて、そうして何日(いつか)何日(いつか)と思って待ってだどころが、そのうちに殿さま通 りあったど。そうすっどおじいさんが、
「枯木さでも何さでも花咲かせて進ぜ申すから、どうか御覧になっておくやい」
 て、殿さまの家来の人さお願いしたところが、
「そんなものあっこんだれば、見せてみろ」
 て言わっだもんだから、おじいさんがこんどは大きな木さ登って、灰の入った そのカゴをかかえて、
  綾はチュウチュウ 黄金ザラザラ
  チチンポン パラリン
  綾はチュウチュウ 黄金ザラザラ
  チチンポン パラリン
 て声をかけて、その笊の灰をパッとまいたところが、花咲く節でもないのに、 いや、それはそれは、見事な花が咲いたど。いや殿さまもお伴の人も、
「いや、これはすばらしいもんだ。いや、みごとなもんだ。何とすばらしいもん だ」
 て言うもんで、大変に感心してお賞めになって、そのおじいさんは御殿さ招(よ)ばっ で、御褒美をもらった。こんどはその話を聞きつけて、
「よし、おれも一つ御褒美もらって呉ましょう」
 て、こう思ったど。そうして今度は残ってだ灰かきあつめて、御殿さ行って、
「花咲かじじいが参り申したから、どうかまた見ておくやい」
 て言うたど。
「いや、この前のは、なかなかみごとだった。ほんじゃまた咲かせてみろ」
 て、殿さまがおっしゃったもんだから、そのおじいさんは御殿の庭さ廻って木 さ登り、その灰をいきなりつかんでふりかけてみた。花どころか蕾一つ出なかっ た。
「いや、こげな筈はないわけだ」
 て思って、そのじじは一生懸命で灰ありだけ、力まかせにぶちまいたもんだか ら、なぁに花などさっぱり咲かねでお伴の人だの、殿さまだのの着物さも顔さも 灰ただかかったど。いや、こんどはお伴の人はごせやいて、
「これは、にせものだ」
 ほうして、おじいさんがすぐにそこで押えらっで、御褒美どころか、かえって お叱りを受けてよ、さんざんな目に合って帰って来たど。
 んだから人真似したってわかんねもんだ。とーびんと。
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