2 瓜姫子

 むかしあったけど。
 あるところになぁ、おじいさんとおばぁさんといだっけど。そうして一人の娘 がいて、その娘、瓜姫子ていうたけど。おじいさんもおばぁさんもその瓜姫子を 大変にかわいがって、「瓜姫子、瓜姫子」て、育ででいだったど。また瓜姫子も大 変孝行で、やさしい娘で、大きくなったもんだから、機織りされるようになった ど。毎日機(はた)師(し)さ上がって、そうして機織りなどしったったど。トントンカラン、 トントン、カランてな。そうしておじいさんとおばぁさんは、その瓜姫子が織っ た布を町さ持って行って売って、お魚を買ったり、うまいものを買ったり、着物 を買ったりして暮していたなだけど。
 ある時、おじいさんとおばぁさんは二人で瓜姫子の織った反物を背負って、町 さ出かけた。出かけっどき、瓜姫子さ、
「瓜姫子、今日はおばぁちゃんとおじいちゃんと町さ行って来っから、誰ぁ来たっ て決して戸を開けるでないぞ、天邪鬼など来っど悪(わ)れがらな、決して戸開けんな よ」
「はい、おじいちゃん、おばぁちゃん、決して心配しねぇでおくやい。瓜姫子は 決して戸など開けねから…」
 て言うもんだから、おじいさんとおばぁさんは反物背負って町さ出かけたど。
そうしたところぁ、しばらく経ってから、表さ誰か来たど。
「瓜姫子、機織りしったか」
「ほだ」
「なんぼ織ったか見せねが」
 て言うごんだど。
「いや、おじいちゃんにもおばぁちゃんにも言わっだも、決して戸開けんなて言 わっだから、戸開けらんねもの」
「そがなこと言(や)ねで見せろ、ちいとでええから」
 て言うごんだど。
「いや、おじいちゃんにもおばぁちゃんにも言わっだも、決して戸開けんなて言 わっだから、戸開けらんねなだ」
 何べん言うても聞かねごんだど。
「ちいと開けて見せろ、小指一本入るぐらいだらば、ええがんべした」
 て言うもんだから、瓜姫子はまたちいと開けて見せたど。そうしたところぁ、 天邪鬼だけずも。いや、瓜姫子、魂消てしまったずだごではぁ。ほうして魂消た 瓜姫子を天邪鬼は機師から引ずり落して、いじめではぁ、殺してしまったごんだ どはぁ。ほうして天邪鬼は瓜姫子に化けて、機師に上がって、機織りの真似しっ た。そのうちにおじいさんとおばぁさんが町からいろいろなもの買って、お土産 を買って帰って来たど。
「瓜姫子、誰か来ねがったか」
「誰も来ねがったな」
 天邪鬼は瓜姫子に化けて知しゃねふりして。
「ほう、よく、ほんじゃええがったでそ、さぁこっちゃ来い。いろいろお前の好 きなものも買って来たし、美しい着物も買って来たぞ」
「ほう、おしょうしな、な、ほんじゃ」
 なて、格別そがえ、にこにこても言(や)ねで、そうしているもんだから、おじいさ んもおばぁさんも何だか不思議には思うたげんども、天邪鬼とは思わねんだし、 そうしていろいろお土産にうまいもの出して呉っじゃところぁ、片端から化げっ だ天邪鬼だから、ガモガモと食うずもの。
「なえだ、瓜姫子、そがえに一度に食ってもええなだが」
「ええなだ」
 なて、ほうして、
「御馳走さま」
 なて、今度また機師さ上がって、機織りの真似すっこんだど。
  トントン カラリン トンカラリン
 そうしているうちに、家の前の柿の木さ鳥ぁ来て止まったど。そしてその鳥さ えずっどこ、おじいさんが聞いでいっど、
  瓜姫子の機さ、
  天邪鬼ぁ ぶんのって
  キーコン パテン
 て言うごんだど。「なえだ、妙な音するな、妙な音するな」て、また耳すまして 聞いでいっど、
  瓜姫子の機さ、
  天邪鬼ぁ ぶんのった
  キーコン パテン
 て鳴くずも。
「あれれ、なえだ、あれ」
 おじいさんが今度、やにわに表さ出はって、そこら見たところぁ、何と無残に も瓜姫子は殺さっで椽の下にいたけずも。
「いや、この畜生、ほに」
 て言うけぁ、おじいさんがごしゃえで、天邪鬼どこ、ひっつかまえで、仇討ち だていうわけで、天邪鬼のどこ、とうとう殺してしまったど。そして裏の野原さ 持って行って、天邪鬼をぶん投げだら、天邪鬼の血ぁ、そこらさこぼっで、萱の 根っこなど赤くなったのは、そのためだど。とーびんと。
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