16 河童と角力とり

 むかしむかし、ある人が馬引張って行ったれば、河童が出はって来て、
「どうだ、おれと角力とっか、んねごんだらば、この馬、おれは引き込むぞ」
 ていうた。
「いや、今日は是非(ずし)ともいそがしい用あっからて、間違いなくお前と角力とりすっから、ほんどきまで待ってけろ。何とか一つ頼む」
 て、こういう風に言うた。ほしたれば、
「うん、何時(いつ)何日(いつか)だぞ。確かに間違いないか」
「はい、間違いない」
 いや、ほこの河童の角力のつよいことったら、誰だてかなわね。ほしてさんざん角力とって負げっど、ずすりずすりて沼さ引ずって行って、ほしてほこではぁ、河童の食べものになってしまう。ほして、ある人が見込っでしまった。
「いやいや、こりゃ困ったごんだ。おれも河童から挑戦うけて、河童と角力とりすんなね。河童、強いて聞いでる、()ぜしたらええかわかんね。約束してしまったすはぁ、こりゃ、なぜしたらええがんべ」
 ていうわけで、ほして占い師さ行ったらば、占い師は、
「いや、ええこと教える。お仏さまさ御飯(おまま)上げるお仏器で、御飯食って行げ。んだど河童に負けねどしたもんだ」
「はぁ」というわけで、こんどお仏器さ御飯、お仏さまさ上げて、お詣りして、ほしてそのお仏器の御飯食べて行った。ほうして沼のどこまで行ったらば、河童出はってきた。
「さあ、河童どの、角力とんべ」
 ていうたれば、
「いやいや、いや。まつぽくて(まぶしくて)駄目だ。光ってだめだ。まつぽくてだめだ」
 て、河童はとてもかかって来らんねがったって。ほのお仏器の御飯食べて行ったもんだから、お仏さまの光さしてはぁ、なえったて河童はかからんねくて、逃げてしまったて。んだから河童に見込っだり、河童いだどきには、お仏器の御飯食べて行けていうた時代あったもんだけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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