11 馬が豚の子

 むかしむかし、江戸で、ある日ある人が、ほれ、
「いやぁ、大したもんだ。馬が豚の子を産んだ」
 ていうた。
 ところが物見高いは江戸の常で、(われ)も見んなね、俺も見んなね、ほら髪結いは剃刀ぶん投げて走る、ほれ。魚屋はボデ投げて、ほりゃ、何もかにも、役人までがわんさわんさ。
「何のさわぎだ」
 方々そっちで怪我人、こっちで怪我人が出る仕末だ。ほして人かきわけ、かきわけ行ったれば、小っちゃな豚の子が一匹死んでいたっけど。ところが、
「何だ、このさわぎは」
 ていうわけで奉行所で吟味したところが、馬か豚の子生んだていうた人がいたという話。
「こりゃとんでもない話だ。取りおさえろ」
 ていうわけで、誰いうたべ。彼いうたべて論議したれば、ある人がとうとう取り押えらっだ。ほうして、番屋さ引張らっで、取調べうけた。
「これこれ、その方は、馬が豚の子生んだていうたほでに、そういう嘘ついたていうたほでに、あれほど人が集まって、怪我人が出る仕末だった。そういう風な言動はつつしまれ」
 て、ごしゃかっだ。
「いや、お役人さま、おれは決して、馬が豚の子生んだなて()ね」
()ねざぁあんまいな、みな、ほういう風に聞いた」
「いやいや()ねんだ」
「何ていうた」
「馬が豚の子踏んだていうた」
「うん、何、そういうことありがちだ」
 ていうて、無罪放免だったって。どんぴんからりん、すっからりん。
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