4 七夕さま(2)

 むかしとんとんあったけずま。
 あるところに、牛飼いがいて、せっせ、せっせと牛のめんどう見っだ。
 して、ある日、浜辺さ行ったら、どっからともなく、きれいな匂いがしてくる。
「ははぁ、不思議な香りもあるもんだ」
 て思って、鼻ひくひくさせて、そして匂いのする方見たら、これは何と、お伽の国さでも行ったような、きれいな娘が、水浴びしておった。
「ははぁ、天女ていうのはこのことだべな」
 て思った。んだげんども、天女見たなていうても証拠がなければ、誰も本気しねだろうと、そこらに、ここらに何かないもんだべかと思ってみたれば、ちょうどそこの松の木さ着物みたいな引かかっていた。
「これは地上のものではない」
 というわけで、これを持って帰ってきた。そしたら、
「何とか返してください」
 ていうわけで、追っかけてくる。そして家まで追っかけてきて、何時とはなしに、二人は夫婦になって、子どもまで出来てしまった。
 ところが、その羽衣、うちのタンスの奥深く仕舞ったげんども、虫ぇ()っだりすっど何とも仕様ないと、ある時虫干しして、牛飼いが野良に出て行ったわけだ。
 ところが、今まで天さ帰るなて一言もいわなかったげんども、その羽衣みたらば、むらむらと里心が出て、そして天女がそれを着ったけぁ、すいすい、すいすいと天さ昇って行ってしまった。
 帰って来たれば羽衣がない。奥さんはいね。いや困ったこと始まったというわけで、なぜしたらええがんべていうわけで、占師さ行って聞いてみたれば、
「竹を植えて、その筍さ千足のワラジを肥料(こやし)しなさい。そうすると天までとどく」
 ということ教えらっだ。そうかということで、次の日から藁を集めて、藁ぶってワラジ作り始めた。九百九十足のワラジを作ったげんども、後はワラもなくなる。何してとても千足はコヤシ出来なかった。んだげんども、
「仕方ない。ありだけ肥料すんべ」
 ていうわけで、九百九十足のワラジを肥料した。ところが筍するする、するする、天まで伸びるということがあるんだが、下から見れば、あわや雲まで届いたような気がした。ほして、枝さ手かけて、ワッショワッショ、ワッショ昇って行ってみたれば、やっぱり、ほの、九百九十足だから、後の足りない分だけ、筍が短かかった。ところが上に奥さんがいて、手招きしった。んで、その天の神さま、
「地上さ行って、大変、七夕がお世話になったそうだから」
 ていうわけで、雲、すうっと下げてよこして、そこさワッショ昇って行った。ほして行ったら、何だか倉みたいなあって、そしてそこで、いろいろ御馳走になった。そして聞いた。
「天にも水田ていうのあるんだか」
「なして」
 て、七夕さま聞いた。
「いや、この御馳走は、これは田螺でないか」
 て聞いた。
「いやいや、これは田螺でない」
「ほんでは、何だ」
「これはオヘソだ。オヘソを食べることによって浮力がついて、地上さ降っで行かねで、天さいることができるんだ。オヘソ食べねど重たくなって、雷さまなんか、ちょいちょいヘソ取らねで、ヘソ食べねで、地上さ落っで行くことある」
 こういうこと()っだ。
「ああ、ほうか」
 て。そして天さ行って、毎日ただでもいらんねから、いろいろ手伝った。
「今日は種まいてこい」
 ほして、何千粒ていうのを蒔いて()いて()っで、最初豆蒔き。ところが豆蒔き終ったれば、
「畑さ蒔けて()うたんでなかった。田さ蒔けて言うたんだ」
 て、そのいじわるお父さんに()わっだ。ほうしたれば七夕さまは、「ほんでは」というわけで、鳩さ命じて全部畑の豆ば田さ運ばせた。んで、まずそこは合格した。
「んでは、明日、お前、瓜の番すろ」
 (うみ)瓜の番させらっだ。ところが、
「その熟瓜、食ってなんねぇぞ」
 ていわっだ。「はい」何とも何とも喉乾いてきて、喉と喉くっついてしまうようで、何とも仕様なくて、ほの瓜に噛りついたところが、そっから水出て、ごーと流されかけた。ほしてはぁ、どこまでも流されっかと思ったれば、やっぱり鳩が来て、牛飼いば助けて呉だ。ほして、
「食うなていうのを、お前食ったがら、一緒にさせるわけには行かね」
 年に一回だけ会うこと許さっで、七月七日、天の川をはさんで会うこと許さっだんだけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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