3 蛇聟入

 水かけ、田さ行ってみっど、水なくてなんとも仕様なくて、
「前田千刈さ水かければ、裏田千刈は干るし、裏田さ掛ければ前田は干るし、これ双方さ、なぁ、一ぺんに水掛けて呉れるものあれば、娘三人も持ってだが、どれでもええな呉れる」
 て、水かけに行って喋ったずなだ。そうすっど若い者ぁ出て来て、
「いや、おれぁ双方さ水掛けるようにして呉れっから、娘呉(く)ろ」
 て言うたど。そうすっど、
「こんなこと言うたて、どれ、おいという子どもいないし」
 あまり心配して頭病(や)めるていうて寝たずだ。そうすっど一番大きいのが、
「とうちゃん、起きて御飯食え」
 て言うたども、
「いやいや、何も食いたくない。ほだども、おれの言うこと聞いて呉れれば起きて食うども」
 て。
「何のごんだか、ほだら語ってみろ」
 て、そして、
「いや、こういう一言語ったれば、若い者ぁ出てきて、いっときに水掛けてもらったから、お前嫁に行って呉んねぇか」
 て言うたれば、
「何もんぼれこいでけつかる」
 て、枕蹴っとばさっだど。そして二番目もその手で来て、じさま頼んだどもそれも聞いて呉んねえ。一番末っ子が、
「あまりええ、おれぁ行ぐがら、とおちゃんのためだれば、どんな人なり親孝行の一つだから」
 て、承知して行くことにして、それが実は蛇体であったっだ。
 どこかのひっこんだ沼に住んでる蛇体だどな。娘は蛇体だちゅうごとはわかっていたから、
「蛇体のおかたに行って沼に入るのだから、ひょうたんさ針千本入っで呉ろ」
 て、とうちゃんから針千本買ってもらって、そして蛇体の沼さ行ったわけだ。そして沼さ入るとき、その女も入る。そして逆(さか)さにしてひょうたん持って入った。ひょうたんが浮きて、沼うちあちこち歩(ある)ったども、その針が蛇体のこけらさみな刺って、鉄は毒なもんだから、蛇体は死んで、その女が家さ帰って来たどな。そしてそれが後とりになって、まず安楽に暮した。やっぱり親のいうことは聞かんなねと言うなべ。とーびん。
(高橋きみの)
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