13 医者のはじまり

 むかし、医者なていう医者いねなだけど。その頃、少し医者の気ある人は、裏板貼ったように薬草竹竿さずうっと隙間なく下げてよ、置くんだけど。頭痛いとか腹いたいと言うど、長い竹竿持ってきて、ガッと打って落ちて来た草が、
「お前さ授いた薬だ。こいつ煎じて飲めな」
 て、やるなだけな。
 ある日、殿さまの使いの者が、
「熱病おこった。何とも仕様ないから、見てもらいたい」
 て来たなだけど。
「んだら、ちょっと行って見っかな」
 て行ってみたらば、やっぱり真赤な顔して熱起していたんだけどな。
「んだれば、いま三十分ぐらいもよったらば、薬取りに来て呉ろ」
 て、帰って来たんだけど。そして家さ来て、何という薬授けたらええかなと思って、いろいろ考えたげんども考えつかねし、
「ちょっと裏さ行って小便でもたれて来っか、こりゃ」
 て、裏さ行って小便たっでいたれば、雨降り上りでもあっけがして、ミミズ二三匹出はって来たんだど。それから、
「んだれば、このミミズ、殿さまさ、今日授いたんだべな」
 て、喜んで、わらわら家さ持って来て、きれいに洗って煎じて、その汁(つゆ)ば瓶さつめて待っていたんだど。そして、
「薬もらいに来た」
 て来たど。
「この薬飲ませて、安静にしておけな」
 て、やったんだって。そして間もなく二人つれで来て、
「目覚まさず、ああいう風に眠むってで、さすかえないのだか」
「また行ってみる」
 どがて言うて。そうしていたらば今度すやすやとねむって目覚まさずねむっていたんだって。
「いや、こんどこそ結構なだ。本当に助かった。目覚めるまで寝むせておけなぁ」
 て言うて来たんだど。そして家さ帰って来たれば殿さまの方でも喜んではぁ、大した折箱もって来たんだってよ。
 そうしているうちに、殿さまは治したて言うので、八方さ聞えだんだど。そしてこんどなんた病気の人でも来てきて困ったもんだけどはぁ。
「あいつは、まぐれ当りで当ったんだけて、こういうあんばいにみんなから来らっでは、でたらめな仕事さんね」
 て、褒美にもらったお金で、長崎まで勉強に行ったのが医者のはじまりだていうのだな。
(安部はる)
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