21 孝行息子の藤六

 むかしあったけど。
 父親と息子いで、その息子、藤六と名付 (つ) いであったど。んで、こんど父親が病 気になって、寒のうちに、寒のうちの鮒食 (く) だいの、たけのこ食だいのっていうご んだずもの。んで、
「蒲沢さでも行ったら、あるがしら、行って見でくっからなあ」
 て出て行ったど。
 そうして山の神に根雪浅いから、ここらにあっかと思って掘ってみたば、見つ けだど。まず筍掘って、
「いや、まずええがった。これは、筍は手に入ったども、鮒とられんべかなぁ」
 と思って、蒲沢沼さ来てみたど。そうしたら氷 (ざり) 張っていたずも。そうして、
「これは困ったなぁ」
 と思って、まず、帯といで自分の腹押っつけで温めたど。その氷なぁ。ほうし たば何だかゆるんだようだと思って、唐鍬で叩いたど。そうしてかましたば、鮒 ひょつんと上がって来たずもの。
「いや、ええがった。ふなも採れたし、帰んべ」
 と思って来たど。そうして来たらば、まだお日様あるつもりなな、暗くなって しまったずも。
「困ったごんなもんだ。だいたい、こっちの方角なようだけども」
 て、とぼとぼと来たば、向うに灯り見えっど。
「いや、こんなどこに家あったけが」
 そう思って、まず松 (たい) 灯 (まつ) の一本ももらうかなぁと思って寄ったど。ほして、「こん ばんは」て言うたば、年寄りの親父いでやったど。ほして、
「まず、暗くなって行がんねぐなったから、あまりおしょうしだども(本当に申 しわけないが)、松灯一本呉っでおぐやんねが」
 ていうたば、
「ええどこでねぇぜ。んだども松灯呉れる代りに、おれ頼みも聞いて呉ろ」
 こう言わったど。
「あまりええ」
 ていうたば、
「おれ、つれあい、まず昨日 (きんな) 死んだども、この雪ではぁ、おれ仕末さんねでいる どこだから、悪れども、雪の上、穴掘るもひどいし、お前持って行って川さ投げ てくんねぇか」
 て、頼まっだど。ほして、
「困ったもの引受けたもんだ」
 と思ったどもはぁ、灯しもらわねば来らんねもんだから、引受て背負ったど。 重たいがったども、来て、ほしてあんばいええ崖あっから、ここらで投げて下ろ すかと思って、おろす気になっど、
「藤六、藤六、投げんべと思うなよ」
 て、こう言うずも。ほうすっど仕方ないから、いまつうと(少し)背負ってと 思って背負って、こっちさ来た。またあんばいええどこあっから、おろすべと思 うど、また、
「藤六、藤六、投げんべと思うなよ」
 こう言うずも。仕方なくてはぁ、おろすべと思うどそう言われて、つい家さ来 てしまったど。
「明日なったら、誰も起きねうちに、前の川さ流すべ」
 そう思ってはぁ、庭土間さおろして、そうして入ったど。ほしたば、何、暗い なでなく、まだ薄明りのあるうちであったど。ほしてまず家さ入って、
「おどっつぁ、おどっつぁ、鮒も筍も採って来たぜ」
 そうして食わせたど。喜んで、
「寒の鮒はやっぱりうまい」
 なてはぁ、喜んで食ったずもの。ほして次の朝げ、
「まず早いどこ、みんな起きねうちに背負って行かんなね」
 と思って、庭さ行ってみたど。そうしたば庭いっぱいさ金ひろがっていたった ど。
「いやいや、これは昨夜 (ゆんべな) の、死骸ないくて、金ばかりだ」
 て、そういうたば、父親、
「おまえ、親孝行なさ、神さま授けて呉 (く) っだんだごで」
 そう教えて呉っだけど。むかしとーびん、びったりさんすけ。
(川崎みさを)
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