12 牛方と山姥

 むかしあったけど。
 あるところに、太郎、次郎、三郎の三人兄弟いだっけど。
「今のうちに仕度しておかねど、こんどすぐ正月になるな、何もないていらんね がら、三人で鯖買いに行って来っか」
 て、越後さ出かけて行ったずも。ほうしてこんど、丁度よく鯖入ったときで、 一背負い買ってはぁ、帰ってきたど。ほうして峠さかかったれば、まだまだ明る い時間だと思っていたなに、暗くなりはげたずも。そうすっど何だか、鬼婆みた いな出てきて、
「待て、待てぇ」
 て、おさえらっでしまったずも。そしてこんど、
「鯖よこさねごんだら、皆一呑みにしてしまうぞ」
 なて言わっではぁ、鯖、仕方ないんだから一背負いみな婆さあずけたど。ほし てこんど、耳まで割れるような大きい口あいでるもんだから、みなツルン、ツル ンて、一匹まま呑んでつるっと空にしてしまって、こんどは、
「待て、太郎ば呑んでくれる」
 て、おっかけはねだど。ほして追いつがっでしまって、こんど太郎呑まっでし まったど。ほれからちいと行ぐど、まだ追いつがっで、こんどは次郎も呑まれる。 三郎一人になったずも。三郎は一生懸命逃げて、ほして見たらば灯り見えっから、
「早く助けて呉ろ、鬼婆に追っかけらっだから」
 て入って行ったらば、きれいな女人 (おなごひと) いだっけど。
「今夜、まず一晩げ、こういう婆さに追っかけらっだから、おれば泊めてけろ」
「それはたしか、ここの主人だべども、んだら仕方ないから、おれ隠すから、ま ずがさがさていう草屋根のツシさ上がれ」
 て、そさ隠さっじゃど。オノガラだのカヤだのに囲 (かこ) った、恐っかねような小屋 だけど。ほしてこんど、その二階さ上がって隠っでいたば、そのうちにはぁ、鬼 婆来たずも。
「嫁御、嫁御、いま来た。今日は寒がったども、鯖いっぱい当ったけし、太郎と 次郎ばも一呑みにして来た」
 なて帰って来たど。そしてこんど、
「おら家さ、いま一人来ねがったが、三郎逃 (ね) がしてしまった」
「そんなもの、来ねっけな」
「んでは、背中あぶりして寝っから、いっぱい火焚け」
 なて、焚かせて、そしてこんど、火どんどんと燃えて来たど。そしてこんど、
「甘酒でも温めろ」
 なて言うずもの。そして甘酒温めて、カン出たころ、鬼婆、コクリコクリとそ こで疲れて眠はじまった。それからこんど、カヤだのオノガラで吹いた屋根だか ら、そっからオノガラとって、それ、甘酒鍋さつけて、上の三郎、吸われるよう にして、ツウツウーと皆吸わせてしまったずも。
「嫁御、嫁御、おれ今眠ったな、甘酒焚いて、カン出たか」
 ていうずも。
「おれも、今寒くて眠てるうちにはぁ、ねぶかけして、みな干 (ひ) ってしまった。こ れは申しわけないことした」
 ていうたど。
「ほんだら、まだ餅残っていたべ、餅あぶれ」
 なていうずも。それからこんど餅焼きした。また鬼婆、ぐうぐう疲れて、そさ 眠てしまった。そのうちにまたオノガラさ刺してはぁ、上げてやったど。その餅。 そしてまた三郎に食せて、そのうちまた鬼婆、目さめて、
「餅あぶっだか、嫁御」
「はてはて、餅もまず、おれ眠ぶかけしてるうちに、みな焼けた風で、みなワタ シ空 (から) だしな」
「んだら仕様ないから、あんまり寒いから、おれ寝ることにする。木の唐戸と石 の唐戸あんなだ。どっちに寝たらええんだか」
 ていうずも。そしたら、
「今夜、冷えっから、石より木の方ええべから、木の唐戸さ寝た方がええ」
 て、そさ入ったど。そして寝っど、こんど三郎ば降ろして、二人で大鍋さお湯 わかして、わいだどき、キリキリ、キリキリと箱さキリモミして、孔あけて、ほ してこんど、ツタパタして、
「何だか異 (い) な音すんな、嫁御」
 なて、中でしゃなったずも(叫んだそうな)。
「向い山のキリキリ鳥、あんまり寒 (かん) じっからだべぁ。キリキリ鳥の音だ」
「んだか、ほんでは眠んべ」
 なて、眠込んだころ、こんどお湯わいたし、そのキリモミの跡も大きくなった んだし、そっから、ドッドッ、ドッドッと入っでやった。
「あつい、あつい、早くふたとって」
 なていうども、
「いやいや、おれはさっきな、追っかけらっだ三郎だ。鯖も太郎も次郎もみな食っ でしまったから、仇討ちだから覚悟しろ」
 なて、どんどんと湯入っでやってしまって、とうとう死んでしまったど。
 それからこんど、ふた取ってみたらば、狸の化けものであったど。
「若しかしたら、一呑みにするていうけがら、太郎か次郎か生きっだかも知んね がら、腹さいてみっか」
 て、刺 (さ) いてみたらば太郎も次郎も、鯖も一匹まんまで呑んでいたもんだから、 みなそのまんまになっていて、嫁御もむごさいがらって、連 (つ) っで、家さ帰ってはぁ、 ええ年取りしたけど。むかしとーびん。
(高橋しのぶ)
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