9 こぶとり

 むかしあったけど。
 あるところに、家二軒あっけ。一軒のじさは、こぶ出しで正直者であったけど。 隣のじさにもこぶあって、ずるくて欲ふかなじさであったけど。
 そして、こぶのじさま、弁当つめてもらって、
「今日は、まず、木でも伐って来っから、弁当つめてくろ」
 なて、弁当つめてもらって、一生懸命で木伐りして、そしてこんど昼眠して、 目覚めてみたれば、夕方になっていたずも。そしたらこんど、夕方になったし、 帰んなねと思っていたら、何だかゴワゴワ、ゴワゴワてはぁ、何か来た音すっす なぁ、
「何来たんだか」
 て見たば、踊りはねたずもなぁ。脇の方で、よっく覗いて見たば、こんど天狗 だけど。ほして、天狗二人できて、踊りはねだずも。
   一 (いち) とべ 二とべ 一とべ 二とべ
 てはぁ、同じことばり語って踊っていっずも。じんつぁはぁ、面白くて面白く て、こんど、暗くなっても家さ帰る気しねずも。それから、こんどあまり面白い から、おれもはまってみんべと思って、
   一とべ 二とべ
 ていうど、
   おれもはまって 三とべ
 て、踊りはねだずも。
   一とべ 二とべ おれもはまって 三とべ
 て、ずうっと一晩げ踊ってはぁ、天狗はぁ、面白 (おもしゃ) がって、
「じさ、じさ、また明日の晩げ来 (こ) い」
 なていうずも。
「ほんじゃ、また来る」
「いやいや、来るなて言うたて、当てになんねから、ほんだら、ほのじんつぁの それ、宝物だべも、こぶとってやったら、それいたましいから、来んべから、そ のこぶ捩いで取ってやる」
 て、ポツッと、そのこぶ捩 (も) がっでしまったずも。
 そしてこんど、戻ってきて、家さ来て、婆さに、
「今来た」
 ていうたば、「ああ、今来たが、何だ、こぶないな。泊ってこぶ落して来たが」
「いやいや、こういうわけで、天狗と一緒になって踊っていたば、また明日の晩 げも来らせたいと思って、来ないど悪 (わ) れがら、こぶ取らっでしまった」
 こんど、それ聞いた隣のじさま、けなれぐなってはぁ(うらやましくなって)、
「ほんだら、おれも行って踊って来たいから、おれもこぶとってもらって来る」
 て、そして、じさ、行ったずも。また晩方になったばはぁ、やっぱり天狗二人 きて、踊りはじめだど。
   一とべ 二とべ 一とべ 二とべ
 て踊っていたどこ見て、
   おれもはまって 三とべ
 なて言うたども、何とも下手で踊れねぇ。
「ゆんべなの、じさまでないようだな。これほに。ほだら来ねったてええがら、 こぶも何もええから、呉っでやれ、かえっつけなもの来 (く) っことない」
 て、こんどはぁ、別な方さ、前の晩のじさのこぶ、べだっとくっつけらっでし まった。ほうして家さ、泣き泣き来たど。
「ばさ、まず、おれ、こぶとってもらうと思って行ったが、踊り下手だって、隣 のじいさんのこぶも、おれのさ喰っつけらっでしまった」
 なて、泣き泣き来たったって。んだから欲ばった、人の真似ざぁするもんでな いけど。むかしとーびん。
(高橋しのぶ)
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