6 行けざんざんの梨

 むかしあったけど。
 おっかぁが、また子ども生みそうになったど。ほしたば、行げざんざんの梨食 (く) だ いて言うずも。親父ぁ、
「ほんでは、おれ行ってもいで来っから」
 そう言うて出かけたど。してずうっと行ったば、年寄った白髭の生 (お) やしったじ さまに行き合った。はいつどさ、
「行げざんざんさ行く道、ここであったべなぁ」
 ていうたば、
「ほだぜぇ、ほだども、これから行くど、大きな牛寝でっから、その牛、尻追っ て、一ぺんに起きだら行けばええし、起きねば戻れ」
 そして、その次にこんど、
「大きな藤づる張っていっから、それ、デーンと踏んで、切れたら行けばええし、 切れねば行ぐなよ。ほして滝あるどさ行って、行げざんざん、行げざんざんてい うたら行げばええし、戻れざんざんて言わっだら戻れよ」
 て教えらっだど。そうして行ったば、ほの大きな牛寝っだずもの。「シー、シー」 て追うども、決して起きねど。
「あらぁ、起きねったて、行ったてもええがんべ」
 どて、行ったど。ほうして行ったば、ほに、太い藤づる、道さ張ってだずも。
「デーン」と二度 (にんど) も三度も踏んでも切れねども、
「差支 (さしかえ) ないべ」
 と思って行ったど。ほしたばなるほど大きな滝あったど。〈もどれざんざん、も どれざんざん〉て、その滝は聞えるずも。
「なえだて、丁度この上側だもの」
 て思ってはぁ、登って行ったど。ほして行ったば、いや実 (な) ってだにも。ほれか ら登ってもぎ方しったば、ほに、にわかに暗くなってはぁ、お雷など鳴っずも。 んだども捩いでだらば、こんどはぁ、向うの方からピカリピカリと光るもの見えっ ど。何だと思ったらば、それが梨の木の下さ来て、
「この梨もぐ者、上から呑むべか、下から呑むべか」
 なて言うずもの。いや恐っかなくてはぁ、親父はふるえて、梨さしがみついた ど。そうしたば登って来て、つるっと呑まっでしまったど。
 ほして次の日になっても来ねもんだから、おっか、ほら心配すっど。ほしたら兄 (あ) んにゃっこは、
「おれ行ってみっから…」
 て、そう言って出かけたど。そして行ったば、また年寄りに行き合ったずもの。 そしてそういう風に教えて呉っだど。
「牛起きねば行ぐな」
 て。ほして行って、あれだど、牛、〈シッ〉と追ったば、一ぺんにモクッと起ぎ だど。ほして次に行って、藤づる〈デン〉と踏んだば、プツンと切れだど。
「いや、ええがったども」
 て、滝の下さ行ったば、〈行げざんざん、行げざんざん〉と聞えるずもの。
「ああ、ええがった、ええがった」
 と思って、行ってはぁ、梨もぎしったど。ほしたばまた、そんでも曇ってきた ずなだもの。ほうして向うからピカリピカリというもの来て、その下さ来て、やっ ぱり、
「上から呑むべか、下から呑むべか」
 ていうずもの。その子はきかない子ども(勇気のある子)であったべちゃぇ、山 (やま) 刀 (なた) さげて行ったんだど。
「どっからでも呑め」
 ていうたど。そうすっどワサリワサリと長黒い光るものは、一目 (ひとつまなぐ) の化けもの て昔はいうたもんだ、それであったど。そして登ってきて、手つん出すど、その 手はぁ、山刀で切ったずもの。そうすっど下さドスンと落ちっど、明るくなった ど。ほうして、行ったば訳のわかんね大きな化けものだけど。そうして今度はぁ、  兄んにゃこ、山刀で首さとどめ刺して、そしてまず、
「父親、もしや生きっだかな」
 と思って腹さいでみたど。ほしたば生きでであったど。
「ああ、ええがった、ええがった」
 て、はぁ、梨は一背負い捩ぐ、父親の手ひかえではぁ、家さ帰ったけど。行げ ちゅうどさは行って、戻れて言わっだら戻るもんだけど。むかしとーびん。
(川崎みさを)
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