5 ぶさろう

 むかしあったけど。
 年寄った夫婦に男子 (おとここ) 一人いだっけど。三郎と名付けて、親衆は年寄ったんだし、 何と何と、堅い、じんじの評判の孝行息子だけど。
 ほして、そこの、ここらのような、やっぱり不便などこで何か買いものに行く には、山越して行かんなねどころだけど。
 そしてその山さ、何か化けもの出るごんだずも、毎日毎日、晩方になっじど、
    ぶさろう ぶさろう
 ていう音すっじ。
「困ったもんだ、買いものに行かんなねに、そんなもの居ては行がんねし、誰か 村内の衆こぞってだら、退治さんねもんだべが」
 ていうていたけど。三郎は孝行だし、豪傑の力もちなもんだから、
「おれ、まず、そろっと行って、様子見てくっから」
 ほして、近所の衆、
「三郎、まず、何事もなく帰って来 (こ) ればええが、化けものに食んねばええが」
 ていう噂立ったずも。
 まず、三郎一人で行って見たど。そしてその峠どこさ行ったらば、やっぱり日 暮れになったれば、
   ぶさろう ぶさろう
 ていうていたずも。ほして段々に近づいて見たれば、暗くなってから傍さ行っ てみたれば、こんど、
「ぶさろう、ぶさろうて、誰にぶさりだいなだ。おれ負 (ぶ) いに来たから、ぶされ」
 ていうた。
「ほんだら、ぶさる。んだども、おれば途中でおろすなよ」
 ていわっだずも。
「ほんじゃ、おれ家 (え) まで負 (ぶ) って行んから、ぶされ」
 ていうたば、何と重たいわ、重たいわ、どしっと負 (ぶ) さったずも。豪傑なもんだ から、ほんでも途中で降さねで、家まで負って来たど。
「負って来たども、これ、なじょなもの入っていたんだか、こんな重たいもの。 化けものの持ってだもの、何入っていたんだかわかんね。何か危ないもんでも入っ ていれば悪 (わ) れし、まず土間さでも置くべ」
 と思って、庭の隅さそおっと降すど、ドスンと音したど。
「何背負ってきた、三郎」
 なて、親父。
「うん、何たて、おれ戸さぶっつかったんだ。その隅 (すま) さ置いたから、明日の朝げ 見ろ」
 なて、そして寝たど。そうは言うてみたども、自分も心配だから、何入ってい たか分んね。何か危ないものでもあっど悪れから、おら家の親衆起きねうちに、 早く起きて見ねねぇて、起きてみたらば、夜明けて見たれば、菰包みみたいなも のだけど。ほしてほげて見たれば、何と何と大判に小判に、ざくざくと入ってい たずも。ほして、こんどよっく見たれば、
「三郎、孝行だから、大判小判授かるなだ」
 て書いてあるもの入っていたけど。ほうして喜んで、まず親衆ば起こして、み んなして、
「おらばり喜んでいねで、近所の衆ば招ばって、お茶でも飲むか」
 なて、近所の衆ば招ばって、話教えて、そしてお茶御馳走して、
「いやいや、三郎のために、おらも恐 (お) かなくなく町さ用達しにも行かれっし、御 馳走なって、ええがった、ええがった」
 て、賞めらっで、そして親子仲よくはぁ、一生暮したけど。むかしとーびん。
(高橋しのぶ)
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