1 猿蟹合戦

 あるどこに猿と蟹いだっけど。そしてはぁ、蟹はワサリワサリと這っていだれ ば、にぎりめし見つけて、拾って、大事にもってだずも。
「お昼になったら食うべ」
 なて。ほうしたらば、そのうちに山から猿出てきて、猿は途中で柿の種見つけ て拾ってきたずも。ほして猿はすばしこいもんだから、蟹に、
「蟹、ええもの持ってだな、おれはそれよりええもの持ってだ。この柿の種植え でおくど、柿実 (な) っど、毎年 (まいどし) うまいな食れっぜ、取換えねぇが」
 て言うたど。ほして騙さっではぁ、蟹、にぎりめしやってはぁ、柿の種と取換 えだっけど。ほうしてこんど、柿植えだば、蟹、大事にして、
     柿、柿、早くおがれ
     おがんねど、鋏切んぞ
 なて、毎日水かけてみたり、さまざましたりして、鋏もって毎日そう言うてい たば、ずんずんおがったずも。そうして間もなぐはぁ、なるようになった。
「こりゃ、ええあんばいだ。実 (な) ったこれ、ほに。赤くなんな何時ごろなんだか」
 たのしみに待ちて、毎日眺めっだど。
 して、秋になってはぁ、捩いで食ってみたば、うまい柿だ。
「これは来年になどなったら、なんぼ実 (な) んだか」
 なて。
 こんど次の年に、ずっと木おがってはぁ、いっぱい実 (な) って、眺めて、こんどは 木高くなって、
「おれ手ではとても捩んねし、誰かに捩いでもらって食 (く) だいなぁ」
 なて思っていたどこさ、猿出て来たずも。
「柿実 (な) った。お前ど取換えだな、こんなええ柿なったども、おれ、とても木さ登 らんねくて、捩んね。木の小さなうちは、おれ、下で一つ二つ捩いで食ってみた。 うまい柿だけどもなぁ」
 なて。ほしたら猿、
「ほだら、おれ登って捩いで来 (く) っから」
 て、登って行ってもいで、自分ばりうまいどこ食って、そして、
「おれどさも、ちいと落してよこせ」
 て言うど、食いがけを落してよこしたり、鼻 (は) (汁 (な) )つけて落してよこしたり、 さまざまいたずらしてはぁ、しまいに、蟹の甲羅さぶっつけてしまったずもな。 ほして甲羅いためらっではぁ、泣いっだど。ほさこんど、臼に、蜂に、栗に、牛 の糞まで来たど。
 そしてこんど、
「なして泣いっだ」
 て言うたば、
「猿ど、柿の種とにぎりめし取換えだば、柿おがって、こがえになったなな、こ んど猿に捩いでもらうつもりで上げてやったば、自分ばり捩いで食って、しまい に、おれの甲羅さぶっつけて、逃げて行ってしまった。ほんで甲羅いためらっで 泣いっだどこだ」
「んじゃ、おら仇討ってくれっから、まず大事にして、水屋の中さでも入って、 お前、治 (なお) せ」
 ほしてこんど、臼は玄関の上さのぼる。牛の糞は玄関の歩き口にいる。それか ら蜂は流しさ行って味噌瓶のあたりさ隠っで、栗は囲炉裏の中さ隠れんべし、蟹 は流しに居たべし、いたどこさ、こんど猿来たずも。
「何としった。蟹どの、蟹どの」
 ほしたら蟹はだまって、流しさ隠っでいだど。ほうしてこんど、蟹は流しさで も行ってと思って行ったども、蟹の姿見えねんだし、そのうちに蜂、隅の方から ぶーんととんできて、刺したずも。
「いやいや、いたい、いたい。こりゃ味噌でもつけらんなね」
 て、味噌瓶さ手入れでいたば、水舟から蟹も出はってきた。こんど、
「こんなどこにいらんね。寒いから火ほげて当んねね」
 なて、火ほげっど、こんど、栗ドーンとはじけだずも。
「いやいや、こんなどこにいられるもんでない。早く出はって行かんなね」
 て、出て行ぐど、こんど、牛の糞さすべりこんだずも。ほうすっど上からこん ど臼落ちてくるではぁ、びっちょりつぶさっでしまったずも。ほしてみんなで、
「ええがった、まず。仇討ったから、早く蟹も出はって来い」
 そして、みんな掛りではぁ、蟹ば助けて仇討ちしたけど。むかしとーびん。
(高橋しのぶ)
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