35 牛方と山姥 -与三むかしー

 牛方して、まいど、ここ越えて明神平から杉沢さ越えて、そしてずっと行って、 越後街道で石滝さ抜けて越後さ行ってだもんだど、牛でな…。
 そうすっど、与三ざぁ、毎日牛ひいて行ってだど。そして毎日買いに行ってい たれば、そん時暗くなったごんだど。そうすっじど、そこに小屋あっけずもんだ から、そこさ泊めて呉ろて泊めてもらったど。そして泊ったれば、
「与三、魚一本呉ろ」
 て言うけど。そうすっど「ほら」てやったど。そうすっどムリムリ、ムリムリ て食ってしまって、「いま一本呉ろ」て言うど。そうすっどまたやり、またやりし てはぁ、ありだけ呉っじゃど。そして牛も呉ろて言わっじゃど。
「牛呉らんね。牛呉っじゃれば明日から魚つけ、さんねから、呉らんね」
 て言うたど。そしたれば、
「呉ねごんだら、与三とって呑むぞ」
 て言 (や) っじゃけど。こんどはとても仕様ないし、牛夜ひくわけに行かねんだし、 それみなムリムリ、ムリムリと食 (か) っでしまったど。こんどは、
「与三、とって呑むぞ」
 て言 (や) っじゃもんだから、逃げて行ったれば、沼あっけど。そこ泳いで行ったれ ば、木、真中さあっけど。そうすっどワラワラと行って、その木さ登ったら、来 らんねもんだから、与三どこ食 (く) たいもんだから、
「与三、なじょして行った」
 て言うけど。
「袂さいっぱい石つめて、泳いで来た」
 て教えたど。そうすっど本気して袂さ石いっぱい入っで泳いで、沈んでみな濡っ だもんだから、寒くてブルブルて家さ上がって、与三どさ行かねで帰って来たど。 そうすっじど、「何しったもんだ」と思って、与三も来てみた。「いや寒いがった」 て。梁の上さ与三あがって寝っだど。そしたば、
「寒いがった、寒いがった、こげな時ぁ、餅でもあぶって食うべ」
 なて、餅、ぞろっとワタシさあぶったけど。そうすっど与三は梁の上で、葭 (よし) 棒 でチョクッと刺して食ったど。山姥は腹あぶりして眠ぶかけしたど。そいつン時、 餅取った。「ああ…」て目覚ましたら、餅ぁさっぱりない。
「火の神さまでも食ったか、ほんじゃ酒でも温めて呑むべ」
 て、酒を燗ナベさ掛けて、そして腹あぶりしったど。また眠ぶかけしたって。 そうすっどまた葭棒で、ツツツツーと、酒みな呑んだって。また目覚まして、
「ああ、酒ない。こりゃ火の神さま、みな飲んでしまったべ、ほんじゃ今夜は寒 いから石の唐戸より木の唐戸さ入って眠んべ」
 て、木の唐戸さ入って寝たど。そうすっど、与三は起きてきて、こんどはそい つさキリキリ、キリキリと穴あけたど。そしたれば目覚まして、
「なえだ、やかましいな、前の杉の木さキリキリ虫ぁ来たべ」
 なて、婆ぁ寝てて言うけど。そしてキリキリ、キリキリと、なんぼも穴あけて、 お湯煮立てて、その穴からチョウチョウ、チョウと煮立つ湯さしたど。そうすっ ど婆ぁ苦しがって、
「さっきだの与三だら助けろ、さっきだの与三だら助けろ」
 て言うけど。そうすっど、
「魚みな食って、堪忍さんね」
て、煮立つ湯、じょうじょうとさして、そして夜明けて見たれば、大ムジナだ けど。とーびんと。
(渡部もよ)
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