26 手なし娘

 お花じゃ、後家ダダもらったもんだから、うんといじめらっじゃど。病気になっ たふりして、後家ダダが、寒の内になど、
「鯉食たいから、鯉とって来て食せろ」
 て言うから、シガがんがんと張ったところさ行って、その寒いとき、沼さ入っ て獲ったじだずな。
 親父はどこさか出て、いねがったそうだもな。そうすっじど、そこさ行ってカェ ンカェンとヘラ持 (たが) って行って突いたれば、拍子よく大きな鯉、バンと上がって来 たけど。そうすっど、その鯉持ってワラワラ家さ来て、ちゃんと煮て、
「おっかさ、あがっておくやい」
 てやって食せたど。んだげんど、お花などなじょかして死ねばええと、後家ダ ダは思っているのだもの、
「寒に沼さやったげんども死なね、なじょなことして殺したらええんだか」
 どていだったど。そんでワカさ行って自分の病気のこと聞いたら、「十才になる 子どもの片腕食うど治る」て言わっじゃど。そうすっどお花の手切って食うどえ えて思ったど。お花は、
「おっかさ、おっかさ、そんじゃおれの手切っておぐやい」
 て。そしたば、
「両手でないど分かんね」
 て、両手切ったど。そして手無しになったんだごで。
 そして旦那衆な家でもあったべ、若衆さ、おっかさは、
「お花は篭さのせて、高い山さ行って、そっからまぐってやれ」
 てだど。お花、むごさいごでなぁ。泣き泣き篭さ入れらっで、親父はいねんだ し、後家ダダから、その高い山から、まぐらっじゃど。ガランゴロンて…。そん でも死なねど。拍子ええごでに。まぐらっだげんど篭から出はって、手のないご んだげんど、コロンと立ったどこだずもな。そして帰って来て、ダダさ言うたれ ば、
「いっとき、座頭食ってろ」
 なてだど。そうすっど座頭食ってろと言わっだがら、座頭になって行ったらミ カン畑さ行ったど。そうすっど若衆ぁ来て、
「いやいや、ミカン畑に盗人いた。ミカン畑に盗人いた」
 て言わっじゃごんだど。そうすっじど、旦那さまさ行って、若衆は、
「どうしたらええがんべ、旦那さま」
 て言うたら、
「手の無い者、むごさいから連 (せ) て来い」
 て言わっだど。そして家さ連 (せ) て来たど。そして連 (せ) て来たらば、立派な門で、立 派な息子いたのだど。そうすっどなんぼそこらからお仲人さっでも、もらわねも らわねて、その息子聞かながったど。そんで親族の人たのんで聞いてもらったら、 「おれはどっからお仲人さっでも、いらね」
 てだど。
「おらえに手のない娘、お花ていう者 (もん) いた。あいつだらもらってオカタにしんぜ」
 て言うたごんだど。そうすっじど、その息子、そういうもんだから、何とも仕 様なくて、
「息子、ええごんだら、ええ」
 て、もらったど。それから手も無いんだから、オボコ出て困ったど。  その息子は、そこらうんと取立てに歩るかんなねがったど。遠 (と) かいどこさよ。
その間におぼこ出来たんだど。そうすっど、なじょしたらええんだかていたど。  その頃の郵便持ちはチャカチャカ、チャカチャカと遠かいどこ歩くのだったど。 そしてその頃、後家ダダ、茶屋しったごんだずもな。
「手がないげんど、息子出たから早く来い。男の子ええの出たから…」
 て、家で郵便持ちに酒一杯出したら、そこさ寝たごんだ。そうすっど何だと思っ て見たところぁ、
「手もないもんだげんども、お花と名付 (つ) かったな、ええ子ども出たから…」
て言うので、
「こりゃ、お花まだ生きてきずがったか」
 ていうもんで、ダダが書き直して、
「手のないのから、角生え、キバ生え、とんでもない者出たから…」
 て書いてやったど。そうすっじど、息子んどこさそいつ持 (たが) って行ったごんだず も。んだげんど、
「そげな者出たごんだら、なおさら大事に、おれ行くまで居て呉ろ」
 ていう便り出したごんだど。そうして来たところぁ、郵便持ち帰りにまた廻っ たごんだずも、茶屋さ。そうすっど、
「また何て書いっだもんだか」
 て思って見たれば、大事にしろて書いてあるもんだから、憎いもんだから、
「そんな者は一日も早く追出 (ぼだ) してやれ」
 ていうごんだずも。家では、
「息子は何を書いてるもんだか、こげなこと書いてよこす、何のごんだべ」
 て、不思議に思って、そうすっど家でも何とも仕様ないもんだから、泣き泣き 家の人も出してやったど。手のない者さオボコ背負わせてだど。そうして山の神 さ行ったのよ。
「おれは手も無いくて、シメシも取換えて呉らんね、なじょしたらええんだか。 オボコと二人でなじょしたらええんだか」
 て居っど、「目ふたいでろ」て言わっで、いっとき手一方つけてもらったど。そ してまた「目ふたいでろ」て言わっで目ふたいだら、もう一つの手ついたど。そ うすっど喜んで喜んで、シメシも取換えられるし、オボコも背負れるして、喜ん でいたど。そんでも奴 (やっこ) みたいなことしていたど。
 そのうちにその息子帰って来たごんだど。家さよ。そしたらそのオボコ出て大 きく育ったがて、喜んで来たど。そしたら、
「何だて、おれ、大事にしろて言うたな、なして、何のごんだべ」
 て調べてみたら、その後家ダダの家だけずもな。
 そうした頃に、息子もうんとおがって、お花、機織りなど一人でしていだった ど。そこさ探 (た) ねに行ったんだど。ホラの貝吹いて、フウフウて探ねに行ったもん だど。そしたれば、川で五つ六つになったのが遊んでいたど。
「野郎、野郎、今ごろ水さ入ってねで、駄賃呉っから、こっちゃ来い」
 て言うたけど。そしたらそのオボコ、とことこと来て、絵図一枚呉れたど。そ うしたらば、「あっちの人に、こいつもらった」て、絵図持ってダダさ行ったごん だど。
「そんがえ、ええな絵図もらい申して〝一服喫まれ〟て言わね人ないごで」
 て言わっだど。そうすっど、
「一服上がれ、一服上がれ」
「おれはこうしていらんねなだから、一服喫まね」
 て、ビリビリ逃げっどこだけど。んだげんどもそのオボコ、なえだにも聞かね ごんだど。そして行ったれば戸の口から、こうして見っだれば、お花も見る、そ の旦那も見るしていたどす、オボコは、
「何だべ、おらえのおかちゃ、こっちの男の人ばり見てっこど」
 て言うたど。
「いやいや、そんでもないごんだ。おれ、まいどオカタにしたお花に似たから、 見っだ」
 て言うごんだど。そしたば、
「んだげんども手無いけげんど、お前さんには手あるもんだから、なじょだかと 思って、黙って見っだどこだ」
 て言うたど。そうしたれば、
「おれも、ほだどこだ」
 て言い訳し、一緒になったんだど。そしてその後家ダダは調べらっで、磔 (はりつけ) に さっだど。とーびんと。
(大平・嘉藤)
>>飯豊町昔話集 目次へ