法印と狐― 大瀬の化けもの寺―

   〈じじちゃ、いま一つ、むかし語んぞ>
 むかしな、大瀬 (おおせ) に化け寺ざぁあったごで。化けもの出るお寺さまで、誰も住ん でねがったなよ。そのお寺さまは法蔵坊ていうお寺だったのよ。
 そのお寺さまに何処からか来た貧しいお寺さまがいだったど。そのお寺さまぁ お布施ばりで暮さんねもんだから、毎日はぁ荒砥 (あらと) の町さ来て、托鉢でお経よんで、みんなから銭もらったり米もらったりして暮しったんだど。ある日、
「今日も天気ええから、荒砥の町さ行って托鉢して、米でも買ってくっか」なて、
その法蔵坊は出かけて来たんだど。そして下山 (しもやま) の方からずうっと、お経読んで来 たれば、あそこ、松 (まっ) 立 (たて) のところまで来たれば、川端のところにぁ、狐ぁ昼眠しっ たけど。
「はぁ、この畜生、うん、この昼 (ひる) 日中 (ひなか) 、昼眠してきづかる。どおれ一つ、だまし てけっかな」なて、法蔵坊は、そーっと忍び足して狐ぁ昼眠しったどこさ行って、 ホラ貝持 (たが) って、
 〈ボホーン・ボホン・ボホン・ボホン〉
 て、ホラの貝吹いだんだど。そうすっど、狐は魂消てたまげで、ピョーンては ね上って、はね上った拍子に、下の松川さ、スポーンて吹飛んでいったんだど。
そうすっど、法蔵坊は、
「いやいや、面白 (おもしゃ) い、面白い、気味 (きび) いかった、気味いかった」て手叩いて喜んだ んだど。
 そして町さ来て、そっちの家さ行ってお経あげで、
「今日はまず、松立で狐をたまげらかして、いやぁ気持よかった」て、大変手柄 話して、ポ・ポ・ポて来たんだど。そして段々晩方ぇなんだから、夜上 (よあが) りすんべ はぁなて来たれば、
「何だか今日はいつもよりはぁ、早く暗くなるようだ。西山ぁまだお天道さま入 (はい) ら る頃でないげんども、暗くなるようだ。おかしい日だ」て思って来たんだど。そ してまた松立のあたりまで来たれば、なんだか下の方から提灯などつけて、みん なゾロゾロゾロて来るなだ見える。よっく見ると荼毘 (だみ) だど。
   ドンドンカェンコン、ドンドンカェンコン、ドンドンカェンコン、
 鉦 (かね) と太鼓叩いて荼毘 (だみ) ぁ来たんだど。
「はぁて、今頃荼毘 (だみ) ぁ来っずぁおかしいごんだな」なて、
「まず、ここで、荼毘ぁ行くまで一服つけて見てっか」
 土堤 (どて) の側さ尻 (けっ) つ掛けて、たばこしたんだど。そしたれば、その荼毘ぁだんだん と来て、
「ここさ埋めろは、ここさ埋めろ」なて、法蔵坊ぁ休んでいたところの丁度傍さ、 穴掘って埋めたんだどはぁ。そうすっど法蔵坊は気持悪くなって、傍にある松の 木の上さ登って、かがんで見っだんだど。そしたれば、
「みんな埋めた埋めた、暗くなっから、あべはあべは」なて、がらがらて行った んだどはぁ。そうすっど法蔵坊は、
「何だて、まず、オレぁいたどこの下さ、荼毘埋めて行った。なんだてほに、気 持の悪いごんだ」なて、ぶつらぶつらて呟 (つぶや) いていだったべも。この松の木から落 んべと思ったげど、何だて足ぁふるけて落らんねぐなったんだど。
 そうこうしているうちに、何だか埋めて行った棺のどこから青い火が、ポコポ コ・ポコポコて燃える。幽霊火だったど。
 そしたら、これはさぶしいさぶしい、背中から冷 (つっ) たい汗ぁだらだら流しながら、
下るに下らんねんだし、木の上にすぐだまっていたど。
 そしたれば、埋めて行った穴の中から頭つだして、パァー、青い面 (つら) して、細 (ほそ) っ こい手出して、そろそろと出はって来たんだど。
 そして見っだれば、松の木さ、ぴたりぴたりと上って来るんだど。法蔵坊はお かなくて、おかなくてはぁ、だんだん尻尾の方さ、尻こじゃりに登って行ったど。
そうすっど、その幽霊ぁ、
「法蔵坊、法蔵坊、どこまで行ったてわかんねぞ、法蔵坊」なて追かけて来るん だど。
 そうすっど、法蔵坊はおかなくて、おかなくて、真青になって、ぷるぷるふる えて、木の上さだんだん登って行ったど。そんでもその幽霊ぁまだ登って来ると、 ピタリピタリと、
「法蔵坊、どこまで行ったて、わかんねぞ」
 悲しいような音立てて登って来るのだど。そして法蔵坊はおっかないもんだか ら、細いどこなのわかんねぐなって、よくよく天井まで登っていったもんだから、 スポーンと木は落ちたんだど。そして法蔵坊も松川の中さ、スポーンと逆 (さか) さになっ て落ちで行ったんだど。
 そしたればそれぁ狐に、行くときホラ貝で魂消らせて、狐はふっとんで行った ので、こんどは狐に返報がえしさっで、仇とらっだんだど。そうだから狐さいた ずらさんねごんだっけど。トービント。
(菖蒲 安久津久造)
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