火種もらった嫁

 むかし、あるどこさ、嫁さんが来たっけど。
「正月の年とりの晩は、オラエの家 (え) では火ぁ消さね家だ」て、姑から云 (や) っだど。
嫁は根っこくべで燃 (も) やしったど。んだげんど、寝ずの番だったが、昼間働いてな もんだから、嫁はねぶけさして、とろとろっと眠るど、火もとろとろって燃えて、 火種もなぐなってしまったど。
 ほんで、仕方 (しゃな) くって、考えあまり、外さ小便 (しょんべ) たれに出っど、向うの方から提灯 つけて来た人いだど。その人の来んのを待っていて、火種をもらおうとしてっど、 その人は真白の衣裳着て棺を背負っていだったど。さびしいもさびしいげんども、 責任はあるし、和尚さまみたいでもあったから、聞いてみたど。
「火くれんななど、かまね。火くれんなの代り、この棺ももらってもらわんなね」
て云わっだど。仕様 (しょ) ないもんだから、棺ももらって背負って、提灯借 (か) っで来たっ だど。ほんで家さそっと入って、棺を自分の長持さ片付けて棺をすぽっと隠しっ たけど。
 そして提灯から火を移して炉さ火燃 (た) いで、知 (し) しゃねふりしていたど。
 お正月礼に、四日の日に行ってこいて云わっだげんど、嫁は、
「お正月礼に行かね」て云うたど。
「来たばっかりなのに、お正月礼に行かねなて」
「オレの代りに、お前ばり行って来てけろ」て聟さ云うたど。聟も奇体 (きたい) できたい で仕様 (しょ) なくて、なんだのかんだのせめてみっど、
「実は、その開き棺はオレの長持さ入った」て云うたど。そう云わっでみたので、 長持を出して来て見たどころが、中から出て来たのは、金銀綾錦の着物ひとそろ い、そくっと入っていだったど。トービント。
(貝生 工藤六兵衛)
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