かわうそと狐(一)

 むかしな。そこの赤禿山の松の木の下に、古い狐が住んでいだっけど。丁度い まみたいに、雪はちらちらちらちらと降って寒いとき、狐は、
「何か食いたいな、何か食いたいな」て考えっだど。んだげんども格別うまいも のはないし、「河原の方さ行って何か雑魚 (ざつこ) でも落ちていないか、行ってみっかな」 て、ずうっと河原の方さ行ったど。そしたら橋のどこまで行ったれば、大変うま い匂いするんだど。お魚あぶる匂いするんだど。
「はてな、誰ぁこがいにうまいお魚あぶったんだべな」て思って、「もしもし、も しもし」て云ったど。そしたら、かわうそは、
「誰だ、今ごろ来るのざぁ」て云うもんだから、
「赤禿山の狐だ。あんまり寒いから遊びに来たどこよ」て狐は云うたんだど。そ うすっど、
「ほだが、ほんじゃ、お魚いっぱい釣って雑魚あぶりしったから、一服喫 (の) めまず」 て、かわうそが云ったもんだから、狐は大喜びでかわうその家さ入ったんだど。
そして、
「いやいや、大変雑魚とれたもんだね」て、狐は賞めたもんだから、かわうそは、 「いや、おらだ雑魚とり商売なもんだ。なんぼでも雑魚などとられっずだい。こ こらのあぶったのを食うとええごで」て云うもんだから、狐は一串食ったれば、 いやうまくてうまくて、こたえられなくなって、それから二串食い、三串食いし て、
「うまいがった。ごちそう、ごちそう」なて、山さ帰って行ったんだど。そして 次の晩になったれば、また何か食 (くい) たくなって、
「はてはて、昨日 (きんな) かわうそに雑魚のでんがくごちそうになったが、あいつまた食 だいもんだな」て、かわうその家さ行ったれば、また雑魚あぶったけずま。そし てまた昨晩 (ゆんべな) みたいに、二つも三つもごちそうになって、
「かわうそ、かわうそ、この雑魚ざ、なじょして獲るもんだい」て聞いてみたれ ば、
「やあ、こげえな雑魚など獲るの雑作ないもんだ」
「なじょして獲るなや、教えろ」
「ほだな。秘伝つぁ、他人さお教えらんねもんだげんど、狐は友達なんだから、 教えっこでぁ。あのな、これから寒い夜よ、川の水は氷 (すが) 張んべぁ、氷 (すが) 張ったとき、 氷 (すが) の上さ行って、ちょちょうて、小便たれっことよ。小便たれっど穴コあくべぁ、 そうすっど、その穴コの中さ尻尾ぁ、ちょろえんと入 (い) っでやっど、その尻尾さ雑 魚はいっぱい食っつくごで。そいつを今度は、ぎっと引っとらえ上っど、雑魚は ぞろぞろぞろぞろと掛って来るんだ。雑作ないもんだ。雑魚とるなざぁ…」て教 えらっだど。
 そうすっど、狐はこげな雑作ないことぁ、オレもしてけましょうと、次の晩げ 寒くなるばっかり待ってで、松川さ行って、柳の木の下さ行って、すぐだまって いたど。段々と寒くなってきて、川の上に氷 (すが) が張ったんだど。そこさこんど、い いあんばいだて、川さ、狐ぁ、じょじょじょじょうて小便たっだれば、穴コあい たんだど。その穴コさ尻尾をちょろえんと入ってやったんだど。氷 (すが) の上さちょこ えんと尻 (けっつ) かけて待っていたんだど。段々だんだん寒くなって来て、ぷるぷるふる げだりしたげんども、もうちょっと我慢してましょう、もうちょっと我慢してま しょうて、狐はその穴コさ尻尾入れで待ってだんだど。そこでこんどは雑魚かかっ た頃だと思って、尻尾あげてみたら、なかなか抜けねもんだ。
「うんこりゃ、よっぽど大きな雑魚かかったんだべ」
 そのうち段々夜明けて来るんだど。人に見つけられっど困ること起ると思って、 一生懸命尻尾あげんべと思ったが、なじょしてもあがんねもんだど。そして雑魚 いっぱい食っついでいたんだどええげんど、感じるもんだから尻尾は氷 (すが) さみな ひっついでしまったんだけど。狐はヤシャナクなって、
「少々の小雑魚、逃げだたて、大事ぁない、尾骨 (おぼね) が抜けるような、コンコンコン コン」て泣いだんだど。そうしているうちに、狩人が来たんだど。夜明けだもん だから、鉄砲持 (たが) って、
「なえだ、あそこの氷の上さつくばていたのいた。なんだべぁ」てよく見たら、 狐だっけ。
「ええものみつけた」て、スパーンて鉄砲ぶって、狐は殺さっだど。
んだから人のもの、ただ食う気になっど、罰あたるもんだ。トービント。
(菖蒲 安久津久造)
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