馬方と狐

 むかし、あったけどな。
 ここから行くとマキサワというところあんべぁ。そのマキサワに川神さまとい う家あっどれぁなあ。川神さまどこにな、むかし、丁度今頃、お正月になっどき、 下山 (しもやま) の方から馬率いて、お魚買いに来たんだど。そして馬方ぁ、お魚いっぱい付 けて、酒飲んで、いい機嫌になって馬方来たんだど。そしたれば、馬方の丁度先、 狐ぁちょこちょこちょことあえでくっけど。
「はぁ、あの畜生 (つきしょう) 、どこさ行くなだべな」て見てっど、道の側さ落っでだ馬の口 ―馬の口ざぁ、馬さ履かせるワラジよ―、ちょえんと背中さ背負ったど。そした れば、そいつぁ赤子になったど。そしてオギャオギャて泣くなだからね。
「あの畜生、何処さ行くなだべな」て、馬方見っだれば、ちょこちょこちょこて 馬方の先になってあえで行って、川神さまの家 (え) さ行ったんだど。
「はあ、川神さま、川神さまさ、なして行くなだべな、あの畜生」て馬方は馬静 かにあえばせて来たんだど。そしたれば、その狐ぁ川神さまの家さ行って、
「ばばちゃ、寒くなったから、泊まりに来た」なて云ったんだど。家の中からば ばちゃ、
「おやおや、よく来た。早く、まずあたれ」なて家の中さ寄せだんだど。
「なんぼかおぼこ育 (おが) ったべはぁ」て、ばばちゃ云うもんだから、
「こがえに育 (おが) ったず、ばばちゃ。見てけろまず」なて、おぼこ出して見せたんだ ど。そうすっど馬方ぁ、
「こりゃ、川神のばさま、狐にだまされっどごだな、こりゃ。よーし、俺ぁあそ こ、こんど見破ってけんなね」なて、こんどは馬ば、道の傍さつないで、頬かぶ りして、そっと流しの方さ廻って行ったんだど。そしたれば、
「あんだ来たんだから、うまいものでもして、煮て食 (か) せんなねべ」て、ばばちゃ 流しさ行って米といだり、お菜 (さい) こしゃえだりしたんだど。そしたら、その娘は― 狐だごで―、
「いや、オレぁすっからええ、ばばちゃ、コタツさ当ってろ」て云うもんだから、 ばばちゃは子供抱いてコタツさ当ってたんだど。そうすっど、娘は流しさ行って 米といだり、味噌すったり、お膳部したんだど。そしてその水、ちゃぁーて流し さ、流してよこしたんだど。そしたれば、流しの陰に見っだ馬方の足さ、ちょちょ ちょちょうて、その水かかったんだど。馬方ぁ、
「この畜生、オレとこだましった他に、またオレどさ水掛けあがった。だっでぇ、 だっでぇ」  て云うたんだど。そしたれば、誰か背中の方で、
「おう、おう、何しった」なて背中叩く人いたど。
「黙ってろ、黙ってろ」
「何だごど、貴様、ほげなこど、黙ってろなて、狐にだまさっだんねがほれぁ」
「黙ってろ、黙ってろ、狐は川神のばさまば、だますとこだから、黙ってろ」
「何語っているどこなんだか、貴様、狐にだまさっだんだごで」て云ったんだど。
そしてよく見たら、ちょちょちょちょうて、水など流して寄こしたんだと思った ら、馬ぁ小便たっでだど。馬の小便、足さかかったんだけど。
そしてこっちゃ来て見たれば、馬の背中さつけたうまいお魚、ぺろっと狐に盗 んで行かったんだど。川神のばさまぁ、狐にだまさっだごんだと思ったけぁ、馬 方が狐にだまさっだんだけど。トービント。
(菖蒲 安久津久造)
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