猿むこ

 むかし、三人の娘を持っていた親父がいだど。母親はすでに死んでしまってい たど。
 向いの山に悪い猿がいて、
「三人の娘のうち、誰か一人くんねど、あんだのどこ殺してしまうぞ」て云うも んだから、親父は心配して、なじょしたらいいもんだか、猿どさ娘くれるなても、 いたましいもんだし、くれねどオレぁ殺されんべし、蒲団かぶって寝ていたど。 そうすっど昼になったから、御飯あがれって、娘が来たど。
「オレぁとっても心配ごどあって、飯 (まま) など食 (く) ってらんね」
「なに、そがえ心配なや、オドッツァマ」て一番上の娘が云うので、
「こういう訳だ。あんだだ三人のうち誰か一人くれねじど、オレどこ殺すて云う なだ。あんだ嫁 (い) ってくれねが」て云うど、
「小馬鹿 (こんばが) くさい、猿のオカタになどなんね」て云うたど。
 二番目の娘が来てもその通りだったど。
 三番目の娘が来たら、また云うだどころが、
「オレぁ嫁 (い) ぐ」て云うたど。
 そして吉日を選んで猿さ申込んで、御祝儀して、いよいよ出はったど。
 次の年、三月のお節句が来たから、
「あしたお節句なもんだから、餅ついて家のオドッツァマどこさ、食せんなねご で」
「ほんじゃ、餅搗いてもって行かんなねごで」
「何さ入っで行く?」て猿ぁ聞くので、
「オレのオドッツァマぁ、なにかいさ入っど、移り香して嫌 (やん) だていうから、臼が らみ背負って行ってくれっどええげどな」
「こげな重たい臼がらみ背負って…」て思ったが、オカタの云うことなんだし、聞 (き) かね訳にも行かないんだし、臼がらみ背負って家さ来たど。途中の川端さ、すば らしく美しい桃の花が咲ったけど。
「オレのオドッツァマは桃の花大好きだから、一枝折 (おだ) てけろ」
「そんげな、じょうさね。まず臼を下ろしてか」
「いや、下ろしてでは駄目だ。下ろすと土くさくなって、オドッツァマ食ねから、 背負ったまま枝を折 (おだ) てけろ」
「あんまり、ええ。んじゃこの花か」
「もう少し天井の花がええ」て、だんだん天井さ行ったら、枝がらみ落ちてはぁ、 川さ流っで行ったど。そして娘が家さ来て、こういう訳で猿を川さ流して来たて、 オドッツァマに話したごどだど。トービント。
(貝生 工藤兵次)
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