かちかち山

 むかし、おじいさんとおばあさんがいだっけど。おじいさんは毎日山さ開墾に 行ってだっけど。ところが昼間近くなっど、どこからか狸が来て、根っこさ腰か けで、じさまが、
「一粒蒔いたら千なれ、二粒蒔いたら二千なれ」
 て一生懸命掘っては穴あけ、掘っては穴あけ蒔っだら、狸ぁ、
「一粒まいたら腐 (く) っされろ、二粒まいたら腐っされろ」
 て悪態語っこんだど。じさまは棒持 (たが) って、追かけっけんども、狸はなかなか早 いもんだから、獲りぱぐってしまうがったど。ごしゃげるんだし、何とかしてあ の畜生獲っだいもんだと思うごんだど。
 次の日もまた行って豆蒔きしてっど、また狸がどっからか来て、いたずら語っ ことだど。じさまは家さ帰って来て、
「ばば、ばば、毎日狸の畜生来て、オレどさいたずら語る、何とかして獲ってや らんなねど思うげんど」「そんなの造作ない」
 て云うて、おばあさんがこう教えたど。 「町さ行ってモッチ(鳥餅)でっつり買ってこい。毎日狸が尻かける根っこさ塗っ ておくといい」
 おじいさんは、早速根っこさモッチ塗っておいっだど。次の日、まだ狸が来た ど。
「また来たな、畜生。今日獲ってけるぞ」そして「一粒蒔いだら千なれ、二粒蒔 いだら二千なれ」て云うたら、狸はどさっと腰かけて、「一粒まいたら腐っされろ、 二粒まいたら腐っされろ」
 て始めたど。鍬持 (たが) って行って、ひっぱだきつけだど。狸は動がんねぐなって、 とうとう捕ったど。その狸を家さ持って来て、晩げの狸汁にすんべと思って、ぶ ら下げでおいだど。息子に、
「隣さ行って、鍋借りて来い」
 て騒いでいるうちに、狸は本性を出して、おばあさんに一生懸命になってだま したど。
「どうか生命だけ助けてけろ、何でもオバサの云うこと聞くから、縄ほどいてけ ろ」
「じさま帰って来たら、オレばりせめられっから、そげなごどされない」
 したれども、とうとう頼まれて縄をほどいてしまったど。そうすっど、
「じじのために、オレぁこがえひどい目に会った。ばばを殺さんなね」
 て、おばあさんを噛み殺して逃げて行ってしまったど。おじいさんが帰ったと ころ、おばあさんが死んで、狸ぁいないんだし、狸汁どこでない。荼毘 (だみ) 出しさん なねぐなったど。その荼毘のとき、兎が見舞いに来て、
「なにしった。まず」て聞いたので、
「こういう訳で、ばばぁ殺さっでしまった」て答えると、
「ほんじゃ、敵 (かたき) とってくれらんなね」「なじょすっこど」
「あした山さ行って狸どこ、ひっ捕えて敵 (かたき) とってける」
 て云うもんだから、おじいさんは兎に頼んだど。次の日、兎が柴刈りに行ぐど、 狸も来たので、「一背負いとったら、一緒に帰んべな」て話かけ、一背負いすっど、 「オレはのろいから、後だ」て兎が云って、狸を先に立てて後から兎が来たど。 いいころ加減のとき、火打石を出してカチカチして、柴さ火つけだど。狸は、
「火のもえる音するんねが」て云うど、兎が、
「んなえ、何かの音だべ」てだましったど。
「いや、なんだか、火ぁ燃える音するず」て云うど、兎も初めて気付いたふりし て、
「んだほに、火がついた。火ぁもえる」て云うたもんだから、狸はどんどんと走っ たので、ぼうぼうと燃えては、ヤケパタ....して家さ、コンコンて逃げで行ったど。
 そうすっど、そこさ兎が、
「ヤケパダの薬、ヤケパダの薬」て、南蛮粉の薬をふれで行ったど。
「ああ、ええ薬屋来た。一つ買ってつけてみんべ」て買ってつけてみたら、今度 は熱くて痛くて泣き出したど。 「いま少しすっど、痛みは止っから」てだまさっで、我慢しったど。とっても我 慢さんねがったど。
「ほんでは、かなり重傷なんだ。海さ行って洗った方がええ」て云うので、
「そうしんべ」て云うて、兎と一緒に浜辺さ行って、狸さ泥で慥えた舟さのせ、
自分は木の舟さのって、 「いま少し沖さ行ってから、洗うとええ」て云うたところが、泥の舟ぁ溶けて海 さ沈んでしまったど。トービント。
(貝生 工藤六兵衛)
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